奏作空間

Reading & Creation Space "SOH"

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    『電脳コイル 関西edition』第2話 後編

    2011.02.11 Friday 23:25
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       最近暖かくなったなあと思ったら、今日なんか大雪でしたね。どうなっとんねん。とは言いつつ、3連休初日の今日は家でぬくぬくしながら発売したばかりの『戦国無双3z』で遊んでましたけどね。ちなみに大河の『江』は見てないです。初回はちらっと見ましたけど、すごいファンタジーチックですね、あれ。

       では今週も関西editionの続きです。


      ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

      #02 「メガシ屋の主、銭ゲばあ」 後編

      「何が欲しいんじゃ?」
       メガばあがじっとウチの方を見て訊ねた。今とりあえず欲しいのはデンスケを治療するためのバグ取り薬。あるいはネット上のワクチンを適当にダウンロードするならダウンロード促進剤の方が安上がりやけど。それからさっきの激闘ですっかり使い果たしたメガビーの補充。あとは、一応壁も補充しとこかな。その辺は値切り交渉次第で財布とも相談しながら決めよ。
      「バグ取り薬と、この間のダウンロード促進剤はいくらなん?」
       値段はメタバグの仕入れ量によって変動する。まずはそれを確認することから買い物は始まる。
      「バグ取り薬30万円、ダウンロード促進剤20万円」
       うん、バグ取り薬の30万円は確かに安い。でもダウンロード促進剤で、ワクチンソフトをダウンロードした方がええか。
      「ダウンロード促進剤、15万円にならんかな?」
      「うん?これでも会員価格でだいぶ割り引いとるんじゃがな」
       まあ、言い分はわかる。正直15万円で手に入る店なんてここ以外にはない。ただ、交渉材料もないこともない。
      「ダウンロード促進剤って、新商品やけどそんなに売れてるん?たかだかダウンロードがちょっと早くなるだけで、必需品やないし。何なら、在庫をウチが全部買い取ってもええねんで。後どのくらい残ってるの?」
      「そうじゃのう、最初に作った分で残り10枚ぐらいかの。まあ、確かに需要がないのは認めるわい」
      「残り10枚、1枚15万円で買い取ってもえーで。もちろん税込みでその値段で」
      「そうするとワシにほとんど儲けはなくなる」
      「ええやん。ウチぐらいしか買いに来ない売れ残りを処分できんねんから。ウチも電脳ペット探しでそれ使うことも多いし、それで手打たへん?」
       電脳ペットを探し出した時に、そのペットがバグを持ってないかを確認することもある。もしそのペットがバグを持ってた時、ダウンロード促進剤があれば手早く作業が終わらせられる。サービス料は依頼料に上乗せすれば、ウチが買い取っても損はせーへん。普段ペットがバグにかかることなんてないから、一般のお客さんにそれほど必要とはされてないし、いい取引やと思うけど、銭ゲばあ?
      「わかったわい。そこまで言うならダウンロード促進剤10枚を150万円ぽっきりで持ってけ」
       うーし。ちょっと大きい買い物になったけど、それでも150万円なら損失はそない大きくないな。
      「それからメガビーも欲しいねんけど」
      「メガビーは10秒300万円じゃ。悪いがこれはもう値下げできんぞ」
       いつも思うけど、10秒で300万円はちょっと高い。10秒なんてあっという間やからな。しかも慣れんうちは攻撃をはずすことも多い。ただ、サッチーにメガネ破壊されて修復ダウンロード費お年玉2年分(2億9800万円)が飛んでいくことも考えると、これはどうしても装備に入れておきたい。その意味じゃ良い値段設定ではある。ここはヤサコをうまく使ってなんとか値切りできんかな。
      「じゃあ40秒で1000万円てのはどう?」
      「バカを言っちゃいかん。そうすると10秒で250万円じゃないか」
      「別に10秒250万円で欲しいって言ってるわけちゃうよ。40秒買うから1000万円払うって」
      「ダメじゃダメじゃ。メガビーはウチの人気商品じゃての。いくらフミちゃんでも、その価格で売ることは認められんわい」
      「私ちゃうよ。ヤサコにも買ってあげんねんから」
      「えっ?」
       後ろで様子を見守っていたヤサコが驚いたように声をあげた。
      「20秒はウチの装備の補充。残りの20秒はヤサコの装備に加える分。メガビーも慣れないうちははずしまくってすぐに使い切ってまうから、このくらい装備しといた方がえーで」
      「いや、ちょっと、頼んでないんだけど」
      「しっ!悪いようにはせーへんから黙って見とき!」
       ウチはヤサコに言い聞かせてメガばあに向き直った。
      「相手がどちらさんでも一緒じゃ。その値段では売れん」
      「話聞いてや。ヤサコはこれからこの危険な大黒で暮らすことになるんやで。少しでも気を抜いたらあっと言う間にサッチーに撃たれてお年玉2年分が飛んでいくのに、そのお年玉を孫にあげるのは誰なんよ?」
       ウチは我ながらえーとこ突いたと思ったら、メガばあは不敵に笑った。
      「フォッフォッフォ。その心配はしとらん。孫がお年玉をどう使おうがワシには関係ないことじゃし、修復ダウンロードに費やしたのならそれもそれで勉強じゃわい。第一、優子の元にそんな金が舞い込めばの話じゃがのう」
      「ど、どういう意味なん?」
       まさかこの銭ゲばあ。お年玉もケチって渡してないんちゃうか。あり得るな。うん、あり得る。実のおばあちゃんからお年玉ももらえへんなんて、なんてヤサコは不憫な子なんやろ。そう思ってた時やった。
      「優子?来年の正月、久々に”あれ”やるかえ?」
       あれ?
      「いっ、いやよ!絶対おばあちゃんとは花札なんかやらないから!」
       花札?
      「一体なんなん?」
       ウチはメガばあとヤサコの両方を見やった。口を開いたのはヤサコやった。
      「私が8つの時に、おばあちゃんお年玉くれたの。すんごい額」
      「それはまた珍しいな。それで?」
      「そのすぐ後、花札やろうって倍額巻き上げられたわ」
      「アハハッ。メガばあらしいなそれ。なるほど、そういうことなんか」
       メガばあからお年玉をもらっても、ヤサコは逆にお金を巻き上げられるだけ。せやったら、ヤサコのお年玉を交渉材料にはできひんな。あ、でもえーこと思いついたかも。
      「それやったら、こーせえへん?来年のお正月にヤサコがメガばあとお年玉を賭けたを花札するかわりに、メガビー40秒1000万円でウチらに売る」
      「何言ってんのフミエちゃん!?そんなの、私が大損するだけじゃない!」
       ヤサコがすごい剣幕でまくしたててきた。
      「勝ったらえーねん勝ったら。その時はウチも応援するから」
      「簡単に言ってくれるけど、おババの花札の強さ知ってるの?この道50年のベテランなのよ!」
      「たまに遊びでやってるから実力はわかってる。でもなあ、ギャンブルは結局のところ運やで。イカサマせーへん限りな」
       そうしてウチはカウンターのメガばあを見やった。
      「どう?メガばあからしたら、ヤサコをひねるなんて簡単やろ?それ考えたら、40秒1000万円は安いもんやんなあ?」
      「ワシはそれでもええぞ。後は優子の意志次第じゃ」
      「私は!」
      「まあまあ」
       思いっきり拒否しそうやったヤサコをウチは優しくなだめる。
      「そうやって逃げてばっかりじゃあかんやろ。人生時には攻めへんと。サッチーに追われてるときも同じやで。逃げてばかりじゃ、いつかどこかで追いつめられる。そうなる前に、抵抗を試みるのもうまく逃げるコツなんやで」
      「サッチーは関係ないわよ。人のお年玉だと思って」
      「せやったらウチのお年玉も使たらえーよ。それなら納得できるやろ」
       するとヤサコは何かに気がついた表情になった。
      「ん?ちょっと待って。今は40秒1200万円のメガビーを1000万円に値切ろうとしてるのよね?」
      「せやで」
       何を今さら。
      「それを認めるとオババは200万円も損するんでしょ?私のお年玉を巻き上げても高々1万円なのに、なんでそんなに乗り気なのよ?」
       ん?この子、もしかしてずっと勘違いしてた?
      「何言っとるんじゃ優子は。こんなもんが本当に1000万円もするはずがないじゃろう。そんなに良い商売なら、ワシはビバリーヒルズに豪邸を建てて暮らしとるわい」
      「え?」
       ヤサコはきょとんした。まったく、ほんまに信じ込むとは思えへんかったわ。相当天然やな、この子。
      「さっきからウチらが値付けで万円、万円って言ってるけど、それは余計やからな。ウチかて電脳ペット探して200万円も貰えるんなら、芦屋の六麓荘(兵庫県芦屋市の六甲山の麓にある高級住宅地)に家建ててるって」
      「......それならそうと言ってよ!恥かいちゃったじゃない!」
       ヤサコはそこで顔を真っ赤にした。おもろ。
      「で?結局メガばあとお正月に勝負してくれるん?」
       話が途切れたのでウチは改めて聞き直した。
      「ちょっと待ってよ。今問題なのは目先のメガビーが200円安くなるかどうかでしょ?なんでそのためにお正月に1万円レベルの賭け事をしなきゃいけないの?それならここで200円渡した方が賢いじゃない」
      「せやから、それはアンタが負ける前提で考えてるからやろ。それにな、目先の200円かてバカにはできひんで。メタバグもそろそろ見つからんようになってきた昨今、いつこのメガシ屋が閉まることになるかもわからへん。今のうちに有効なアイテムはお得な値段で買い占めた方がええねんて。じきにメガビーも10秒500円ぐらいになるってウチは踏んでるからな」
      「それでも......」
       ヤサコはまだ渋るようやった。しゃーないなあ。
      「メガばあ。この子、探偵局に入れてウチが鍛え直すわ。この子も商売っていうものがわかれば、もう少し強かになれると思うねん。賭け事でこんなナヨナヨしてたら、先が思いやられるわ」
       ウチは声を細めてメガばあに提案した。
      「それはこっちとしてもありがたいがのう。最近はフミちゃんしか駒、じゃなかった、人手がいなかったからワシもメタバグの仕入れに困っとったところじゃ。よし、もし優子の勧誘に成功したら、レンガ壁10枚もおまけにやるわい。これでどうじゃ?」
      「ほんまに!?やったあ!じゃあ以上で」
      「うん。ダウンロード促進剤10枚150万円とメガビー40枚1000万円で合計1150万円じゃ。レンガ壁は成功報酬じゃて、うまくいったら後で取りにくるがええ」
      「おおきに。じゃあこれでちょうどな」
       ウチは1150円を現金で支払って商品を受け取った。こんなにここで安く買えたんは初めてかも。やっぱりヤサコをダシに使ったのは成功やったな。これで後はこの子を探偵局に入れればレンガ壁10枚もおまけがくるなんて、グッシッシッシ。
      「結局どうなったの?」
       店先に出たところでヤサコが訊いてきた。
      「ああ。ウチの言い値で買えたで。ありがとな」
      「待ってよ!私まだオババと勝負するなんて言ってないわ!」
      「そのことは、まあ保留ってことで。安心し。アンタの意に反することはせーへんから」
      「なんかすごい不安なんですけど」
       アンタはこれからウチやメガばあの色に染めてあげるやん。商売始めたら、頑張ればお年玉1年分ぐらいすぐに稼げるしな。
       
       そんなこんなで、ウチはデンスケの治療のために新築のヤサコの家に上がらせてもらうことになった。
      「おっじゃましまっす」
      「遠慮しないで」
       えーなあ。ピカピカのフローリングのリビングに明るい天窓。そこを抜けたすぐのところがヤサコの部屋らしかった。
      「うわーきれい、最高。このダンボールさえなければね」
      「そうやな」
       正直ウチの弟にはこのダンボールを持たせて、早々にウチの家から追い出したいわ。そしたらウチは子供部屋を独占できる。
       なんて考えてたら、目の前のダンボールが急に動いた。なんや。
      「京子!」
      「ウンチ!」
       そのダンボールから出て来た小さい女の子は、こっちを指差してそう叫んだ。失礼な。
      「ワハハッ。ウンチ!」
       と、ウチが唖然としてる間に脇をすり抜けて部屋を出て行った。
      「マイブームなの。何も手も指差してウンチ」
       いたたまれない顔をしてヤサコが言った。なんか、コメントしづらいわ。
       
       とりあえず静かになったところで、ヤサコはデンスケの犬小屋を出してそこに寝かせた。さっきからほったらかしにしてたけど、だいぶ参ってるようやな。
      「ウイルススキャンは......良かった。ウイルスには感染してないみたい」
       と、しばらく様子を見てたら”修復ダウンロードエラー”の文字が現れた。
      「あれ?修復が進まない」
      「促進剤でも貼ってみよか」
       ウチはデンスケにメタタグを貼った。するとエラーメッセージは消えていった。これで一応大丈夫かな。
      「おおっ」
       ヤサコが感心してるところで部屋の扉が開いた。ヤサコのお母さんやった。
      「いらっしゃい。さっきは恥ずかしいとこ見られちゃって」
       恥ずかしいのはメガばあやから、全然気にすることあれへんのに。
      「お邪魔してまーす」
      「せっかくお友達になってくれたことだし、お夕食一緒にどうかしら?」
       やったあ!こんなどこの馬の骨かもわからん小娘に、なんて心優しい人なんやろ。
      「ゴチになります!」
       そうしてウチはヤサコと2人でカレーをいただいた。やっぱり、新居で食べるカレーは格別やな!
      「ねえ。メタバグって一体なんなの?」
       食事の最中、ヤサコはふと訊ねてきた。その説明もまだやったか。
      「さっきデンスケの貼付けたメタタグがあるやろ。それの原料やねん。現物見てみる?」
       ウチはポシェットから1つ取り出してヤサコに見せた。
      「きれいやろ。普通のバグはペットマトンや空間を壊すだけやけど、偶然役に立つ機能を持ったバグが出ることがある。それがメタバグやねん。なんでか知らんけど、大黒市でしか取れへんの」
      「だよね。金沢じゃ見たことないもん」
      「でも最近サッチーが片っ端から消去してもうて、数が減って来てんのよ。さっきも言ったけど、そのおかげでメタバグの値段が上がってて、メガシ屋も近々値上げに踏み切らなあかんくなると思うねん。ウチがメタタグを買い占めたのも、そういうのを見越したからやけどな」
      「ふーん」
       さて、お腹も満たされて気持ちもほぐれたところで、ウチはあの話を切り出すことにした。
      「さて、ヤサコ。話があんねんけど」
      「何?改まって」
      「うちのクラブに入らへん?」
      「クラブ?」
      「コイル探偵局っていうんやけど。活動はかいつまんで言うと、今日私がやったような行方不明の電脳ペットの救出とか」
       実際のところ、メガばあに相当こき使われるけどな。特に最近はメタバグも減ってきたから、かなり探し回させられたし。そういったウチの負担を減らすためにも、ヤサコには是非とも入っていただかないとな。決してレンガ壁10枚が惜しくて言ってるわけやあれへん。
      「さっきオババと相談してたのはそういうことだったのね。私の入会と引き換えに割り引いてもらったってわけか」
       ヤサコは少々呆れ気味やった。
      「正直言うたらそうなるな。でもヤサコもさ、メガばあのこと苦手なんやろ?このままでいいん?これから一緒に住むことになんのに、今のままやったらしんどいで。せやから、ウチがメガばあへの対処法も教えるから。な?入会してや」
      「その心遣いはありがたいし、活動の内容も興味深いよ。今日だってデンスケを助けてくれたのは感謝してるし」
      「そやろ。人を助けるっていうのも、気持ちいいもんやで。それは報酬とは別にしてもこの商売してて良かったと思えるところや」
      「......でも、冒険なんかじゃ何も変わらないわ」
       ヤサコはうつむいてそう言った。なんなん?その小説みたいな意味深な言葉は。前の学校でなんかあったんやろか。まあでも、これだけ誘っても乗ってこないってことは、ちょっと今日は難しいかもしれんな。メガばあとも相談して、日を改めてまた誘うことにしよかな。
      「......わかったわ。強制はせーへん。じっくり考えといて。また誘うと思うから」
      「ごめん。わがまま言って」
       そんなに後ろめなくてもえーのに。ウチが半ば強引に入会させようとしててんから、そんな顔されるとこっちが申し訳なくなるわ。
       ひとまず今日はおいとましようかなとウチが立ち上がった時、デンスケの小屋のアラームが突然鳴り出した。見たら修復ダウンロード最中にまたエラーがあったらしい。
      「やだ、なにこれ?」
       ヤサコがそのエラーメッセージを消そうとしてもあかんかった。これは普通のバグではないとウチはそこでようやく気付く。デンスケを膝の上に置いて、獣医さんのようによく体を調べてみると、舌のところに奇妙な模様が浮かんでいるのを見つけた。
      「やっぱりイリーガルに感染してるな」
      「イリーガル?」
      「アンタが見たっていう黒い生き物や。ペットマトンに寄生するコンピューターウイルスやねん」
       これは厄介やな。ウチもこの目でイリーガルに感染してるペットは初めてや。
       とりあえずヤサコにはメガネ関係の情報掲示板サイトを出して、イリーガルに感染したペットの画像を見せた。どれを見ても、デンスケと同じような模様が浮かんでる。死ぬかどうかは書いてあれへんけど、危険な状態には変わりない。ヤサコの表情もだいぶ不安げになった。
      「薬練ってやるぞ」
      「うわあ!」
       窓の向こうにメガばあがおって超ビビった。どっから現れんのよまったくもう。この部屋も、既に盗聴されてんのかもしれへんな。まあ、どの道ウチの手に負えへんかったからちょうど良かったけど。

      「これはどこからか何かをダウンロードしておる」
      「それはわかってるわ。一体どこから何を?」
      「どこかから何かをじゃ」
       まじめに答えたりいや。
      「頼りにならんなあ」
      「バカもの!これはただのダウンロードではない。デンスケのメカタを増やして、勝手にダウンロードしておるのじゃ」
      「なんやて!?」
      「どうしよう?」
      「まずはダウンロードを止めることじゃ」
       メガばあは立ち上がった。メガばあも本気出せば頼りにはなる。
      「オババ、何とかできるの?」
      「ワシに任せるのじゃ」

       ウチらはメガばあの薄気味悪い電脳工房に移動した。まずはメガばあ恒例の仏壇へのお祈りが始まる。その行為にどれほどの意味があるんか、ウチにはわからん。
      「オババなにしてるの?拝んでる場合じゃ」
      「そう焦るでない」
       そう言ってメガばあが鈴を鳴らすと、部屋の真ん中にでかくてけったいなメカが姿を現した。どっから材料を調達してどうやって作ったのか、ウチも知らん。
      「ワシの電脳工房にようこそじゃ」
       メガばあはさっそくその装置をいじり始めた。今はデンスケ治療のための処方箋をどう調合しようか考えてるところやろな。
      「まずメタバグの目を読むのじゃ」
      「そうするとどうなるの?」
      「メタバグは1個ずつでは何の役にも立たん。じゃがな、つなぎ合わせると」
       メガばあは在庫の中から取り出した2つのメタバグを拡大鏡の向こうでこともなげにつなぎ合わせる。簡単にやってるように見えるけど、この作業はメガばあの神髄が垣間見えるところでもある。
      「ああ、すごーい」
       ヤサコも思わず感嘆の声を上げた。
      「目の読み方、力の入れ方どれも精進の賜物じゃ」
      「これができるんはメガばあだけやねん。並のばあさんじゃないんやで」
      「余計なこと言うでない」
       メガばあはウチを叱るとすぐにメタバグを加工し始め、メタタグが完成した。
      「できあがりじゃ」
      「メタタグってこうやって作るんだ」
       するとメガばあは出来上がったメタタグをドラエ○んのように頭上に掲げて言った。
      「電脳虫下し!」
      「虫下し?」
      「ワクチンソフトのことや」
      「悪い虫には虫下し。コンピューターウイルスにはワクチンソフト」
      「良かったあ。じゃあデンスケ治るのね?」
      「かわいい孫のためじゃ」
       ん?タダであげんの?どういう風の吹き回し?
      「おばあちゃんありがとう」
      「その代わり条件がある」
       するとメガばあはコイル探偵局のバッチを取り出した。しかも八番ということは、ウチの次や。
      「ああ、メガばあ。さっきヤサコ誘ったんやけど、あまり乗り気やないみたい」
      「なぬ?どうしてじゃ?」
       ウチの言葉を聞いてメガばあはヤサコの目を見た。
      「......どうしてって言われても、なんか、そういう冒険はもういいかなって」
       もういい?どういうことなんやろ。この子電脳には疎いし、何か危ない目に遭ったこともないように見えるけどなあ。
      「そうかえ。残念じゃのう。じゃったらそのメタタグだけ持っていくがええ」
      「いいの?お金は?」
      「どうせ大した持ち合わせもないじゃろう。デンスケは治してやらんとかわいそうじゃ。コイル探偵局のことは、お主の気が変わった時にまた考えてくれればええ」
       なんか、こんな寂しそうなメガばあを見るのも初めてやな。やっぱり孫に断られたのはショックやったんかな。それにしたって、メガばあがタダでものをあげるなんて。

       ともかく、これでデンスケは治るやろ。ヤサコの部屋に戻ってウチはもらったメタタグを早速デンスケに貼付けた。
      「あ!」
      「どうしたん?」
      「だって、分離したらあの黒いのが飛び出してくるんでしょ!」
       ヤサコは座布団を持って身構えてる。そんなんじゃイリーガル倒されへんいうのに。
      「大丈夫や。この分やと解析には明日までかかるわ分離が始まるのはその後」
      「そうなんだ」
       あ、そうそう。忘れるところやった。さっき買ったメガビー、この子にもちゃんと分けたらんと。
      「ヤサコも自衛のためにメガビーは持ってた方がええで。ほら、これで20秒分あるから」
      「メガビー?私、ああいうのはちょっと」
       なに遠慮してんのや。使いこなせたらカッコいいのに。
      「えーからえーから。サッチーに撃たれたら、データの修復にお年玉換算で2年分飛んでいくねんで。しっかり使えるようになっときや。冒険する気はなくても、この街じゃボーッと歩いてても危険は襲いかかってくるからな」
      「......わかった。ありがとうフミエちゃん」
       もちろん。
      「タダであげるねんて言うてへんで。20秒分500万円。きっちりもらうよ」
      「ええっ?」
       タダより高いものなんてあれへんねんから。ウチはきっちり代金もらって今度こそおいとますることにした。
      「じゃあ、何かあったらすぐ電話してや」
      「ありがとう」
       やっと長い一日が終わろうとしてた。あの子、冒険はしたくないって言うてたけど、あれはフラグやと思うねんなあ。なんか、これから今日より大変な目に何度も遭いそうな予感がぶんぶんするわ。

      (第2話 終わり)

      ーーーーーーーーーーーーーーーーー

       今回ヤサコには小説版っぽいセリフをつけました。フミエ目線で終始進むこの物語において、ヤサコの過去もまた謎の1つということで、この辺もオリジナル色が今後出て来るのではにでしょうか。

       というところですが、再来週は気分を変えて、また川島の本棚か、別の企画を立てたいと思います。それでは。


       

       
       









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