奏作空間

Reading & Creation Space "SOH"

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2015.02.13 Friday
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    『電脳コイル 春』サイドストーリー 最終話

    2010.10.01 Friday 23:18
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       ー前回のあらすじー
       みんなそれぞれ意中のクラブの見学に行きました。

       今回は最終回ということで、『春』本編の空気にだいぶ近づきます。

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       大黒市立大黒中学校 最終話 「金沢の異変」

       1年生のクラブ体験期間もこの日が最終日。メンバー達は全員最初に絞ったクラブに正式入部しようと考えていた。ヤサコが吹奏楽部、ハラケンがロボット研究部、アイコがテニス部、ダイチがサッカー部、ガチャギリがゲームクリエイトクラブ、ナメッチが調理研究部、デンパが美術部、そしてフミエは当初考えてもみなかった文芸部だ。正式入部は来週からとなる。
       そんな晴れ渡る金曜日の朝。この日は寝坊して遅れるらしいアイコを置いて、ヤサコ、フミエ、ハラケンは3人で登校していた。ちょうど彼らがクラブの話に花を咲かせながら中津交差点の辺りを通りがかった時だった。
      「あれ?小此木さんに橋本さん、それに原川君」
       歩道のガードレール越しに3人に声をかけてきたのは大黒市警の直樹だった。横には同じく大黒市警に配属されている久美子もいた。
      「あ、直樹さんに久美子さん。おはようございます。お久しぶりです」
       3人を代表してフミエが丁寧に挨拶する。さすがは学級委員長になっただけあり、お手本のようなお辞儀だった。ヤサコとハラケンも笑顔で礼をする。
      「そうかあ、3週間ぶりくらいだもんね。いやあ制服を来てるから最初は誰だかわからなかったよ。3人ともよく似合ってるよ。大人びた感じがするね」
       こちらも相変わらず愛想のいい笑みを浮かべて直樹が言った。気持ちのいい言葉に3人は照れ笑いを浮かべる。
      「ありがとうございます。直樹さん達は、こんなところに車を止めてどうされたんですか?あ、例の再調査を?」
       フミエが思い出したように言う。中津交差点に来ているということは、そういうことなのだと察しはついた。直樹と久美子はカンナの交通事故の再調査を任されている。2人の目的は事故の時にここで 通路が開いたという確実な証拠を掴むことだ。
      「調査の方はその後どうなんでしょうか?」
       ハラケンが進みでて訊ねた。カンナの名誉のために交通事故の真実を隠蔽したメガマスの旧幹部を裁きたいと願ったのは他ならぬハラケンだ。直樹はそんなハラケンを前に、少し渋い顔つきになった。
      「うん。まあぼちぼちだね」
       その表情に合わせて声のトーンも下がったので大体事情は読めた。
      「あまりうまくはいってないんですね」
       もちろんハラケンは2人を責めるつもりはなかった。しかしその事実にはハラケン自身も落胆の表情を隠せなかった。
      「すまない。八方手を尽くしているんだけどね。今日もここを通学路に使う学生相手に聞き込みをしていたんだ。成果はなかなかあがらないけどね」
       この道を通る学生というのはたいていが大黒中の生徒、もしくは小学生だ。つまり子どもの証言を頼らざるを得ないほど、再調査は暗礁に乗り上げているということを意味している。
      「大丈夫ですよ。きっと事故を目撃した人は必ずいるはずです。そんなに肩を落とさないでください」
       少し気まずい空気が流れたのでフミエが取り繕うように直樹を励ました。
      「ほら、竹下君。彼女の言う通り肩を落としている場合じゃないわよ」
       久美子も一緒になって直樹に声をかけて3人に向き直った。
      「ごめんね。彼、最近このことでナーバスになってるのかずっとこんな感じなの。ちょっと後で気合いを注入しておくわ。必ずあなた達にはいい報告ができるようにするから」
       3人には久美子の方がずっと頼もしく見えた。直樹には疲れの色さえ見える。
      「それを聞ける日を心待ちにしています。じゃあ行ってきます」
       フミエは聞き込みを邪魔するわけにはいかないのでここで話を切って行くことにした。しかしそこで直樹が気を取り直したように呼び止めた。
      「あ、待って。君たち、金沢の事故について何か聞いてる?」
       いきなりの質問だったが、ヤサコ達3人には思い当たることがなくはなかった。
      「竹下君」
       しかし今度は久美子が直樹の腕を掴んで首を横に振っている。どうしたのだろうかと3人は思ったが、直樹もそれでハッとして考え直したようだった。
      「ごめん、君たちは通学中だったね。込み入った話はまた今度聞くことにするよ。呼び止めて悪かった。道中気をつけてね」
       直樹がそう言うので、ヤサコ達も「はあ」とそのまま軽く頭を下げて歩き出す。直樹はしばらく手を振っていたが、その後は神妙な顔つきで久美子と何かを話し合っているようだった。
       中津交差点を通り過ぎた3人は直樹の言いかけたことについて考えた。
      「金沢の事故ってあれよね。なんか空間に穴が開いたとかで、周りにいた子ども達のメガネが壊れたってやつ」
      「ああ。オバちゃんはその事故の調査のために金沢に行くって言ってた。ヤサコもおじさんからその話を聞いたんだよね」
      「うん。直樹さんもそのことは多分オバちゃんか誰かから聞いてたんだろうね。でもなんで私達にそのことを確認しようとしたのかな?」
       3人はしばらくの間考え込んでいたがその理由はわからなかった。

       それがぼんやりと見えてきたのは学校に到着してからだった。フミエは2組の自分の席につくと、その後やって来たガチャギリから朝一番で珍しく声をかけられたのだ。
      「なあフミエ。ちょっとメンバーで相談したいことがあるんだが、昼休みに連中を集めてくれねえか?」
       いきなり何の話だとフミエは思いつつも、ガチャギリの方を振り返って確認する。
      「メンバーって『コイル探偵局』の?なにかメガネに関するトラブルでも?」
      「そんなところだ。できれば誰にも聞かれないところで相談したい。昼休みに人気のない都合のいい場所は思いつくか?」
       それなら屋上でもと思ったが、こんな天気のいい日なら出入りがあるかもしれないと思った。空いている教室でもいいが、どこの教室が常に人が来ないかなど入学したての自分たちにわかるはずがない。
       そんなところでフミエは1ついい場所を思いついた。
      「心当たりがあるわ。場所のセッティングは任せて。にしても、そんな人払いをしてまで何の相談よ?」
       するとガチャギリは周囲を窺い、細めた声でフミエの耳元でささやいた。
      「金沢の事件に関することでちょっとな。それに我らがイサコがそれに関わっているかもしれねえんだ」
       フミエは驚いて無言のまま大きく目を開いてガチャギリの方を見据えた。言い終えたガチャギリは何事もなかったかのようにバッグを開いて教科書を取り出し始めていた。

       昼休みにフミエがメンバーを集めたのは第3会議室前だった。校舎の隅にあって人は滅多に来ない文芸部の部室だ。フミエはあらかじめ部長の入江に連絡をとっていて、彼女はそこに鍵を持って来てくれた。
      「すみません部長。わざわざ鍵を持って来ていただいて」
      「かわいい後輩のためだ。このくらい構わない。これからこの部室は好きな時に開けて使っていい。鍵は職員室の鍵掛けの右端の方に掛かってるからな。もちろん、使い終わったらちゃんと戸締まりして鍵は元に戻しておいてくれ」
       入江はそう言うと鍵を差し込んで解錠した。少し立てつけの悪い引き戸を開いたフミエは、まずメンバー達を中に促す。
      「適当なところに座って」
       そしてフミエは入江から鍵を受け取った。
      「繰り返すが出る時の戸締まりには気をつけてくれよ。ちなみにこの子達は君の友達か?」
       メンバー達は入る時に入江に軽く会釈する。そんな彼らを見て入江はフミエに訊ねた。
      「まあ、そんなところです」
      「そうか。願わくば彼らも正式入部とはいかないまでも、文芸部の活動に参加してもらいたいものだ」
       それはフミエのように入江の手駒になることを意味していた。フミエはそれを不服とは思っていないし、話してみると楽しい人であることもわかっているので気にならないが、さすがにこのメンバーを全員参加させるのは気が引けた。
      「まあ、誘ってはおきますよ」
      「はは。頼んだぞ」
       そう言うと入江は満足そうに帰っていった。フミエは廊下を見渡し、近くに人がいないことを確認してから引き戸を閉めた。部員が入って来るかもしれないが、電気をつけていればその時はノックぐらいするだろうと思った。
      「文芸部の部長さんってキレイな人なのね」
       すでに2つ並んでいる長机の一方に陣取って座ったメンバーの中から、アイコがフミエに言った。その印象は間違ってはいないが、彼女が毒蛇のようなしたたかさを隠していることをフミエは黙っておくことにした。
      「しかし随分とかわいがられてるな。まだ正式入部もしてねえのに、部室を勝手に使ってもいいって。こっちは大いに助かったけどよ」
       続いてなぜか上座にいるダイチが言った。下座しか空いていなかったのでそこに座ったフミエはこの位置関係はどうなんだという不満は置いといてそれに答える。学級委員になってからフミエは我慢を覚えた。
      「基本ヒマなクラブだから出入りもないのよ。ましてや昼休みだからね。でもあの人に借りを作るのは怖いわね......それはともかく、早速話に入りましょうか。今日アンタ達『黒客』が私たちを招集した理由を教えてよ。私はさっきちらっとガチャから話は聞いたけど」
      「ああ。実は昨日の放課後、久々に『黒客』メンバーで集まって今後の活動方針の確認をしていたんだが、まあ、メタバグも出なくなったことだし具体的に何をするかって話になったんだ。そこで儲け話を探すために色々と検索していたんだが、そん時にある掲示板を見つけたんだ」
       ダイチが身を乗り出して説明をはじめる。ダイチはフミエとガチャギリの恋人疑惑以来ずっとガチャギリには声をかけづらくなっていたのだが、その疑いが晴れるやいなやすぐに『黒客』の活動の話をガチャギリに持ちかけた。学校のクラブもメンバー達は大体絞り込んだわけだし、『黒客』の活動についても今後どうするかを話し合うために昨日は集まったのだ。
      「その掲示板っていうのは?」
       訊ねたのはハラケンだ。
      「ああ。金沢のメガネに関する都市伝説が書き込まれる掲示板だ。金沢はメガマスの支社もあってコイルス社だったか?の実験空間もあった場所だよな。だからメガネに関する都市伝説は大黒と同じぐらい多い。しかしメガネユーザーの全体的なレベルが低いから、今じゃ大黒市でも信じられていないような話も、まだ信じ込んでいるヤツは多いらしい。具体的な例で言うとミチコだな」
       ダイチがその名前を出した時、ヤサコの心臓は一瞬跳ね上がった。ダイチが何を言わんとしているのか、ヤサコのこめかみをイヤな汗が伝う。
      「で、これが昨日その金沢の掲示板に書き込まれていた記事だ。記事自体の信憑性はどうかと思うが、ちょっとショッキングなことが書かれてあった」
       ダイチはそう言うと、全員の目の前にウインドウを表示した。メンバー達は神妙な面持ちでその記事を沈黙しながら目を通す。内容はこんなものだった。
      『夕日寺中学校の生徒である天沢勇子は、黒井地区で最近よく目撃される暗号を駆使し、”あっち”への通路を開いてミチコに会おうとしている。先日起こった電脳ペットの集団奇 怪行動も、この暗号の影響である可能性が高い。彼女は大黒でも同様の行為に及んでおり、先日メガマスから発表された大黒市中津交差点の交通事故の原因と言われている』
       そしてその書き込みには、イサコがチョークで暗号を書いている画像が掲載されていた。
      「まさか、イサコが今更こんなことするわけないじゃないか。ガセネタだよこれは。画像だって昔のものの使い回しか合成だろ」
       真っ先に言ったのはハラケンだった。ここにいる誰一人これを事実だとは思わなかった。
      「書き込みについては、オレもそう思う。でもそう簡単に切り捨てられないところもある。この画像を調べてみたんだが、ハラケンの言う合成なんかじゃなかった。これは少し前にキューちゃんが撮影した正真正銘のイサコらしい」
      「それにこの画像にある暗号をよく見てみろ。これはイサコがかつて使っていた暗号とは構造がまるで違う。古い物の使い回しという線もない」
       ダイチとガチャギリがそれぞれ指摘する。2人の言いたいことに気付いたのはフミエだ。
      「ちょっと待って。そうなるとイサコは今まで使ってなかった暗号をわざわざ持ち出したってことになるよね。ミチコを呼び出しているかどうかはともかく、イサコは本気で何かを起こすつもりだってことが言えるっていうわけね」
      「まあ、そんなところだわ」
       フミエ達の会話が進んでいる間に、画像を拡大してにらめっこをしていたハラケンはぽつりとこう言った。
      「この暗号、どこかで見たことがあるような気がするんだけど、どこだったかなあ?」
      「本当かハラケン?しかしこんな魔方陣みたいな暗号、見た事もねえけど」
       半信半疑でダイチが訊ねる。その「魔方陣」という言葉でヤサコはハッと思い出した。
      「ハラケンこれもしかして、先月廃工場に行った時に見つけたのと同じじゃない?」
      「廃工場?ああ、そうだその時だ。確か工場の電源パネルがある部屋にあったんだっけ」
       ハラケンもはっきりとその時のことを思い出した。
      「ちょっと、廃工場なんて忌々しい記憶を思い出させないでよ」
       その話に反応したのはフミエだ。先月廃工場のブースに閉じ込められたヤサコとフミエはそこで心霊体験をした。その時であった少女をヤサコは思い出す。
      「ごめん。でもどうしても気になって。それで続きだけど、フミエちゃんと私がおかしな体験をした翌日にハラケンと廃工場に行ったのは、その時に出会った女の子を探すためだったわ。名前はなんだったかなあ。ああ、そうそう。詩織ちゃんだったかな。私達と同じ歳くらいの子よ」
      「ふむう。じゃあその詩織って子がこの魔方陣的な暗号について何か知っているかもしれんってことだな。その暗号をどういうわけかイサコが使ってると。まあ、その辺の事情はイサコに直接連絡をとれば済む話だが、その子は大黒の小学校の生徒なのか?」
       ダイチがヤサコの話を聞いて確認する。しかしヤサコはかぶりを振った。
      「ううん。大黒の出身じゃないって言ってた。どこか遠くの方、言ってもわからないところって」
      「じゃあ、その詩織って子は金沢の人間でいいんじゃないのか?言ってもわからないところっていうのが気になるが、そうしておけばイサコがこの暗号を使っていることもだいたい想像できる。イサコはその子と何かを起こそうとしているのかもな」
       とりあえずガチャギリのまとめで皆は同意するようにうなずいた。手がかりもないし、それにこれはこの会議の大きな主題ではないからだ。
      「1番の問題は天沢さん自身のことよ。この書き込みは、去年イサコが大黒にいた時に書かれたものに似てる。もしもダイチ君の言う通り、金沢のメガネ事情が遅れているとしたら、その時と同じことがイサコの身に起こってるかもしれない」
       ヤサコはこの時最も肌身に感じている不安を口にした。それを聞いてメンバー達もしんみりとする。
      「そう。この書き込みが事実かどうかは関係なく、これが1番の問題だ。多分ヤサコの心配してる通りのことが起きてると思う。まあ、それをオレたちが遠い大黒から心配したところで、何の解決にもならないんだがな」
       ダイチの言うことはもっともだが、それはただメンバーに無力感を煽っただけだった。
      「うん。あの時は私たちもイサコをかばってあげようとは思わなかったわけだしね。今アイツを心配したとしても、端から見れば私達は偽善者になる。あの時イサコを気にかけてたのは唯一ヤサコぐらいよね。金沢でも、アイツにヤサコのような存在があればいいけど。そうじゃなかったらツラいだろうね。まだ中学校生活は始まったばっかりなのに」
       フミエが自分を責めるように言った。今更あの時の反省を押し並べても仕方ないが、後悔の方が先に溢れ出て来る。場は静まりかえったが、再びヤサコが、今度は控えめな声でつぶやいた。
      「でも、今こんな書き込みが出るってことは、もしかして金沢の事故の原因は本当に......」
       その名前が出そうになったところでヤサコは口をつぐんだ。メンバー達には今月初めの廃ビルの事件以来、ずっと黙ってきたことだ。
      「何ヤサコ?気になることでもあったの?」
       フミエがヤサコの顔をのぞき込みながら訊ねた。
      「なんか顔色悪いなヤサコ。大丈夫か?」
       続いて心配そうにダイチが声をかける。その時ほとんどのメンバーは、イサコを心配するあまりヤサコの気分が悪くなったのではないかと思った。
      「別になんにもない。ただ、ここに書かれている電脳ペットの集団奇怪行動っていうのが気になって」
       その時首を横に振ったヤサコをなんとなくおかしいと思ったのはフミエとハラケンだった。ヤサコの「別になんにもない」はなにかある時によく出る言葉だと気付いているのだ。
      「ああそれについても気になったから調べてみた。なんでも今週のはじめに金沢市の一部の地域で、文字通り電脳ペット達が一斉におかしな行動をとったっていう事件があったらしい。それに関しては人的被害がなかったからニュースにはならなかったみたいだが」
       そんなヤサコの様子には気付いていないダイチが説明する。メンバー達にとってはその話は初耳だった。
      「そんなことがあったんだ。金沢市は本当に最近おかしな事故が続いてるね。確かその日には電脳ナビの故障で車の追突事故があったはずだ。その時は小さい誤作動だったらしいから、大きな事故にならなかったけど」
       その追突事故についてはニュースでも報道された。何しろメガマスがメガネの不具合や電脳ナビシステムの無期限停止措置を発表したその日に起きた事故だったので反響は大きかった。
      「何か原因があるんだろうな。ひょっとしてイサコはその一連の事件を追っているとか。それを快く思わないヤツが、イサコに関するガセネタをばらまいてその動きを封じようとしているんじゃないか?」
       ダイチにしては珍しくキレのいい推理を見せる。この書き込みも去年同様、誰かの何らかの意図があって書かれたものだということはメンバー達も薄々気付いていた。その説明としては、ダイチの推理は十分筋が通っているものだった。
      「あれだな。イサコもそういう星の下に生まれて来たっていうか、メガネの事故に巻き込まれる不運を纏ってるんだろうな。オレたちと同じで。いや、去年の事件はアイツがオレたちを巻き込んでいったものだから、アイツがオレたちに持ち前の不運を分けてくれたんだろうな」
      「ちょっとガチャギリ!そんな言い方はないでしょ」
       いかにもガチャギリらしい皮肉をアイコはたしなめた。
      「でもまあ、しゃくだけどダイチの推理はいい線行ってると思う。イサコがその事件を追ってるっていうのは多分そうなんでしょうね」
       フミエもダイチの推理に賛同した。
      「それはイサコに確認すればわかることだけどな。でもわかったところで、オレたちに何を手伝えるわけじゃない。イサコを手助けしたいが、アイツからしたらありがた迷惑だろう。アイツの方がやっぱし電脳力は上だからな」
      「まあ、それは疑いないことね。私たちはイサコの近況を掴むだけ。それで満足しないといけないわね」
       フミエがそう言うとメンバー達の視線はヤサコに集まった。そのヤサコはうつむき加減で深い考え事をしているようだったが、しばらくしてからメンバー達の視線にようやく気付いた。
      「え?なに?」
      「いや、こうなったら直接イサコに近況を訊ねた方が話は早いんじゃないかと思ってだな。そうするとイサコに1番頼られているお前しか適任者はいないじゃねえか」
       聞いてなかったのかよという表情でダイチがヤサコに説明する。
      「私が適任者なの?」
      「それはそうだろう。去年の事件でイサコを救って、あの後このメンバーの中でイサコと連絡を取り合ってるのはお前だけじゃねえか」
       メンバー達もそれに異論はなかった。イサコにとってやはり1番近い存在はヤサコになる。しかしヤサコはそれを即諾するでもなく、またしばらく考えるような表情になった。その時だった。
      「ちょっと待って」
       その流れを止めたのはフミエだった。全員がフミエの方に視線を移す。
      「なんだフミエ?」
      「私がイサコに話を訊くわ。ヤサコ、イサコの電話番号私に教えて」
       場は一瞬きょとんとした空気になった。
      「どういう風の吹き回しだよ。お前がイサコに電話するって」
      「別に、個人的にイサコの声を聞きたいって理由だけど」
       ダイチは「そうか」と納得するしかなかった。誰が聞いても同じことであるし、手を挙げるのならフミエにその役を与えても問題はない。実際フミエは、先ほども話に上がったイサコバッシングの時に彼女を信じてやれなかったことを本人に謝りたがっていた。
      「それだけなのか?他に考えがあるんじゃねえのかよ?」
       しかしガチャギリはフミエの申し出に若干の疑問を抱いていた。そしてもう1人、ハラケンも首を傾げていた。ハラケンの方は半分訳知り顔に見えたが。
      「それも個人的にイサコに訊きたいことがあるっていうのじゃダメかしら?」
       いちいち余計なところに反応してくれるなよと思いながら、それでもフミエはウソは言わなかった。だいぶぼかした言い方になったが、ガチャギリもそれで一応納得はしたようだ。おそらくガチャギリも薄々は自分の考えに気付いているのだろうとフミエは思った。ハラケンも同様だ。
      「んじゃまあ、そういうことでいいか?それならフミエ。イサコの近況については、来週また報告してくれよ。みんな気になってるだろうからな」
      「了解。じゃあヤサコ、イサコの連絡先教えて」
      「うん」
       そういうことで今日の会議はお開きとなった。フミエは部室の戸締まりをして鍵を職員室に戻しに行く。その時一緒について来てくれたヤサコの顔は、終始沈んでいるようにフミエには見えた。
       ヤサコは何か隠している。フミエは直感的にそう思った。

       翌日の土曜日。フミエは満を持してイサコに電話をかけた。

       その電話を終えてフミエが感じたのは、イサコにはどことなく悲壮な覚悟が漂っていたということだ。声だけでそれは伝わってきた。彼女は自分の戦いにケリをつけると言っていたが、フミエにはその意味がよくわからなかった。そしてその力強い言葉とは裏腹に、フミエは不安を拭いきれなかった。

       日曜日の夕方。金沢市のとある場所で開かれたメガネのイベントで空間事故が起きたというニュースが報道された時には、まさかという思いがフミエの頭の中によぎった。


      ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       『電脳コイル 春』サイドストーリーはこれにて終了です。

       一応今回のお話で時間経過の確認をしておきますと、この最終回は『春』本編では第18話の「分かち合えない痛みを抱いて」と同じ日という設定となっています。最後のフミエとイサコの電話はその話の[part8]に収録されています。この電話の翌日が第19話の「徒花の咲く庭」にてイベント事故が起こる日です。

       さらに細かい時間設定をここで説明させていただきます。以前のエントリーで、『春』の舞台となっている2027年のカレンダーは今年、2010年と曜日の並びは同じと紹介したのは覚えていますでしょうか。そこで今年の4月のカレンダーを引っぱりだしてもらうとよくわかると思うのですが、「徒花の咲く庭」は4月25日(日)に起きたという設定になっています。『春』の本編はその翌日4月26日(月)、厳密に言えば27日(火)の早朝にて第2部が完結しています。そして第3部のスタートはその翌日、4月28日(水)からとなります。翌日29日(木)は昭和の日でお休みですが、一応物語の中でも祝日設定しています。つまりゴールデンウィーク前の最後の登校日から始まるということですね。30日は休日じゃないぞ思われるかもしれませんが、その辺は学校の創立記念日などの適当な理由をつけて学校休みにしておきます。

       次回のブログは第2部の復習としてのまとめと、第3部への予習を予定しております。それでは来週もお見逃しなく。

       

       
       

       











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