奏作空間

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2015.02.13 Friday
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    『電脳コイル 春』サイドストーリー 第4話

    2010.09.17 Friday 23:13
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       さて、前回僕がコメントへの返信をおろそかにしてしまったのもありまして、その返信に代えて今回の見所をご紹介します。

       事件の少ない今作での1番の見所は、なんと言ってもフミエとガチャギリの恋人疑惑にダイチがどう反応するかでしょう。この筋書きがなければ話が広がらなかったと思います。案を出していただいた雨響さんには多大なる感謝をしております。

       今回はついにその騒動が決着するのですが、少し意外な方向にダイチを動かしたつもりです。それは中学生になった彼なりの成長だと捉えてもらえれば幸いです。短いお話の中ですが、彼の葛藤にも1つ注目してみてください。

       それからそんな彼を見守る同じクラスのハラケン。彼の心中というのは『春』でも詳しく描いてはいないのですが、今回はほんの少しばかり、そこを垣間見られるような場面を用意しました。おそらく『春』の本編に向けても重要な伏線になるのではないかと思われるシーンですので、そこもお見逃しなく。

       それではどうぞ。

      ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

       大黒市立大黒中学校 第4話 「お弁当の秘密」 

       ダイチがガチャギリの机からフミエが持って来た弁当を見つけたその日の昼休み、ダイチはそのことがどうしても気になったので怖い気持ちも抑えて2人の様子をうかがうことにした。そしてハラケンもそこに付き合った。机を並べて仲良くフミエとガチャギリが弁当を食べているシーンを目撃した日には、ダイチが校舎の窓から飛び降りかねないと心配したからだ。
       当の本人達はそんな監視されていることもつゆ知らず、ランチタイムに入っていた。
      「すまねえなフミエ。こんな贅沢な弁当作ってくれて」
       その弁当箱のフタを開けたガチャギリは、珍しく素直に礼を言っている。ダイチは耳を澄ませながらすごい形相で2組の教室の後ろからそれを直視していた。
      「いいのよ別に。アンタに感謝されるのはくすぐったいわ」
       フミエもガチャギリの方を向いて親しい様子で返す。明らかに1週間前の2人のテンションとは違う。
      「これお前が作ったの?」
      「半分は私で、半分はお母さん。いつも弁当は一緒に作ってるからさ」
       ダイチのうなだれ方はハンパじゃなかった。恥も外聞も捨てて、ここから飛び出してフミエの手作りおかずの入った弁当をガチャギリが口をつける前にかっさらってしまいたかった。
      「なんでだよ。いつからあんな風になったんだよ......」
       ダイチの恨み節など聞こえるはずもなく、ガチャギリは厚巻き卵に手を伸ばした。
      「これはどっち?」
      「それは私よ。最近練習してるの。おいしくないかもしれないけど」
       ガチャギリはかまわずその卵を口に入れた。
      「どう?」
       不安そうにフミエがガチャギリの顔をのぞきこむ。
      「......普通にうまい」
      「あー良かった」
       今のは感情を表に出さないガチャギリにとっては最上級の褒め言葉だった。そしてそれを聞いてフミエの表情もパッと花開いた。
       それを見てまずいと思ったのはハラケンだった。今のをダイチはどういう気持ちで見守っていたのか。ダイチに目隠しないといけないところだったかなあと後悔する。
      「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
       溢れ出す嫉妬を抑えきれなくなったダイチは、そのまま廊下をものすごい勢いで風のように走り去っていった。
      「ん?今バカの叫び声が聞こえなかった?」
       フミエが訝しんだ。
      「ダイチか?」
       ガチャギリも廊下の方を見てみるが、その姿がないのでランチを続けることにした。

      「いやあ、今のは効いたみたいね」
       その時1組の教室から歌うようにアイコが出て来た。
      「もう本当のこと言おうよ。ダイチの精神衛生上よくないって。今日だって午前中の授業はずっと上の空で、バナー攻めされてるのにも気付かずにメガネパンクしたんだ。そのくらいアイツも病んでるんだって」
      「それはダイチ自身が解決することじゃない?いつまでもコソコソとしてないでさ、さっさとフミエに思いを告げればいいじゃない」
       アイコの言うことはもっともなのだが、それでもハラケンはダイチがかわいそうでならなかった。
      「ダイチにも色々と葛藤があるんだと思うよ。ガチャギリもダイチの親友だし、本当にどうしていいかわからなくなっているんじゃないか?」
      「恋か友情かってこと?そんなの言い訳にしてたら恋なんてできないじゃない。甘いのよ考えが。もし自分と同じ人を好きになった人がいたら、その時点でその人と自分はライバルよ」
      「それは相原の持論だろ。そもそも男子と女子で恋愛観なんて違うじゃないか。ダイチにそれを押し付けないでくれ」
       どういうわけか廊下の真ん中で今度はこっちがヒートアップしてきた。
      「もうね、アンタにしてもダイチにしても、見てるこっちが歯がゆいの。このくらいの荒療治が必要なんだって。さもないと本気でダイチもフミエを誰かにさらわれるわよ」
      「ダイチはともかく、僕の何が歯がゆいんだよ?」
      「あの子の気持ちに気付いてないところがよ。もしくは気付いてるのかもしれないけど、その答えを自分の中で先延ばしにしようとしているところが」
       ハラケンはその言葉に黙ってしまった。アイコもそれを見て笑みを浮かべる。
      「男だったらはっきりしろってことよ。アンタもダイチも。私だっていつまでも恋のキューピットするつもりはないからね。さっさと私も自分の恋を見つけたいもん」
       そういうとアイコは手を振りながら教室に戻って行った。結局ハラケンはアイコに図星を突かれた動揺で、ダイチにどう声をかけてやればいいかさえ見失っていた。

      「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
       ダイチは咆哮を上げながら廊下を突っ走っていた。行くアテはないが、じっとしていればイヤでもあの2人のことを思い出してしまうので無心に走った。そうして廊下の曲がり角にさしかかった時だった。ダイチは角から出て来た人と思いっきりぶつかってしまい、お互いにしりもちをついた。
      「きゃっ!」
       廊下にリコーダーや音楽の教科書が散らばる。幸いダイチの体格が小さかったおかげでその人も吹っ飛びはしなかったものの、ダイチはやっちまったと思って顔をのぞき込んだ。
      「わ!ヤサコじゃねえか!」
       驚かれたヤサコも腰の辺りをさすりながらダイチの方を見る。
      「ダイチくん?どんなスピードで廊下走ってるのよ。危ないなあ」
       仏のヤサコも今の衝突には少しムッとしたようだった。
      「すまん。ちょっとイヤなことがあってだな」
       ダイチは立ち上がってヤサコにも手を差し伸べ起こした。廊下に散らばった物も拾ってヤサコに手渡す。
      「イヤなこと?それよっぽどだったのね。あんな雄叫び聞いたこともなかったけど」
      「ああ、まあ色々な」
       ダイチはそこでふと思いついた。フミエのことならヤサコに聞けばいいと。
      「ヤサコ今時間あるか?ちょっと訊きたいことがあるんだが」
      「え?別にいいけど、昼休みの終わる10分前ぐらいに切り上げてくれれば。私まだごはん食べてないから」
      「わかった。あんま人に聞かれたくないから、どっか人のいない適当な場所で。屋上でいいか」
       2人はすぐ脇にある階段をのぼってと屋上に出た。ほんのり曇りがかった空模様だったが、心地よい風が流れている。
      「訊きたいことって何?」
       ヤサコはこんなところで男子と2人っきりっていうのも慣れないシチュエーションだったが、相手がダイチなので意識はしなかった。
      「ああ、フミエのことだ。フミエと1番仲良しなお前に訊きたい。フミエとガチャって付き合ってるのか?」
       あまりにダイチがまじめな顔して言うので、ヤサコは少し可笑しくなった。
      「そんなわけないよ。確かにそんな噂があるみたいだけど、普段のあの2人の様子を見てればわかることじゃない」
       ヤサコは噂の発信源がアイコであることを知っている。しかしダイチもその噂を本当に真に受けるなんてかわいいなとヤサコは思った。
      「普段のあの2人の様子ってのは、フミエの作った弁当をガチャがおいしくいただいてることを言うのか?」
      「えっ?」
       何の話だろうかとヤサコは思った。
      「さっき見たんだよ。フミエが作った弁当をガチャがおいしいって食べてるのを。ありゃどう見てもカップルだよ」
      「それほんと?なんでフミエちゃんがガチャギリくんの弁当を作ってあげてるの?」
      「だからオレもそれを知りたいんだよ。フミエから何も聞いてねえのかよ」
       ヤサコは記憶をたどってみたが、そんな話をフミエから聞いた覚えはなかった。
      「聞いてないわ。それ本当にフミエちゃんが作ったお弁当?」
      「オレがたった今そのシーンを見て来たんだ。間違いねえよ」
       そう言うとダイチはため息をつきながらフェンスを背に座り込んだ。アイコも言っていたが、フミエはそっち方面の話題はヤサコにも口を閉ざしているのだろうなとダイチは思った。
      「それはちょっと後で訊く必要があるわね......ところでダイチくん」
      「ん?」
      「なんでそんなにショック受けてるの?」
       ヤサコはもちろんその理由を知っているが、どう反応するかという少しいじわるな気持ちもあってあえて訊いてみた。
      「バ、バカ言うない。ショックとは違うだろ。オレはただ『黒客』のリーダーとしてだな、メンバーの1人が敵方と付き合ってるっていうのが許せねえんだよ」
      「ふ〜ん」
       そう来るだろうとはヤサコも思っていた。しかしその論法でいくと、ダイチは生涯フミエと付き合うことはできないんじゃないかと思った。
       ここでダイチの背中を押してやることもできるのだが、ヤサコは自分にそんな資格があるのかと自問する。自分だってハラケンのへの気持ちをずっと言い出せずにいるのだ。それを棚に上げてダイチに「自分に正直になれ」とは言えない。
       だからここはこっそりとダイチをアシストできればと思った。とりあえずフミエに事の真相を訊ねるのが先決だ。
      「じゃあ、私にできることがあったら何でも言って」
       ヤサコがいたわるように声をかけると、ダイチは余計うつむいてか細い声で言った。
      「それなら、今オレを1人にしないでくれ」
      「え?」
       見たこともないような寂しい表情でダイチが言うので、ヤサコの方がドキッとした。
      「1番信頼してたヤツに裏切られると、誰も信じられなくなるんだな。今1人になると、誰からも疎外されてるような、そんな気分になりそうで怖いんだよ」
      「そ、そんなことないよ。みんなダイチくんのことは好きだよ。なんならデンパくんやナメッチくんをここに呼ぼうか?みんなで楽しい話をすれば、そんな沈んだ気持ちも吹き飛ぶはずよ」
      「いや、そんな気分でもねえわ。アイツらだってそれぞれのクラスで楽しくやってるんだろ。わざわざ呼び出すのもなあ」
       これは重症だとヤサコは思った。今のダイチは完全に孤独だ。
      「それならハラケンは?ダイチくんと同じクラスじゃない」
      「アイツには最近迷惑かけっぱなしだから。あー、でもなんか、このままじゃ精神的に参っちまいそうだ。ヤサコになら話してもいいかもな」
      「なにを?」
       まさかとヤサコは思った。自分がそれを背負い込んでいいのだろうかという疑問が浮かぶ前に、ダイチは言ってしまった。
      「......オレ、フミエのことが好きなんだよ。小学校の頃からずっと」
      「そ、そうだったの?」
       既に知ってることをここぞとばかりに告げられてリアクションをとるのは難しい。それでもヤサコは必死に合わせようとした。
      「さっき『黒客』の体面のことも言ったが、それもウソじゃない。でも結局オレはガチャに妬いてるんだろうな。別にフミエはオレのもんでもねえのに、ガチャがオレを裏切ったとかバカみてえ」
       ダイチが自嘲気味に笑う。
      「どうして私にその話を?」
      「まあ、なんつーのか、言葉は悪いかもしれんがオレにとっては絶妙な存在だからかもな。男連中には今更恥ずかしくてこんなことは言えんし、かと言って相原じゃ口が軽すぎる。1番信頼が置けて、オレが気兼ねなく話せる女子はお前しかいないんだよ。フミエとも仲が良いしな」
       それは喜ぶべき言葉なのだろうかと思ったが、いずれにせよ自分はダイチにとっての1番の相談役に任命されたのだと思った。
      「今までその気持ちはずっと溜め込んできたんでしょ。私なんかにそんな大事な話をしても良かったの?」
      「今言ったろ。お前しかいなかったって。やっぱ誰かに話すと違うもんだな。全然さっきまでと気分が違うわ」
       やっぱり1人で抱え込むより、そういう思いは誰かと共有した方が楽なのかなとヤサコは思った。それがまたアイコのような人なら話は別なのだろう。
      「でもお前にもそんな迷惑はかけたくない。たまにこうやってオレの話を聞いてくれるだけでいいんだ。そうすれば、オレもいつか自分の中で踏ん切りがつけられる時が来るかもしれんし」
      「踏ん切りって、フミエちゃんのこと諦めるの?」
      「いや、そんなにあっさり諦められる自信はねえな。どっちにしても、今のあの2人の関係をずっと見せられたら、諦めざるを得ないんだろうが」
      「そんなの、ダイチくんの勘違いかもしれないよ。私がちゃんとフミエちゃんの真意を訊いてくるから、そう簡単に諦めないで。ダイチくんとフミエちゃんはお似合いだと思うよ」
      「ありがとよ。ほんと、お前がいてくれて良かったぜ」
       どうもここまで言われると、ヤサコも自分がハラケンを想っていることをダイチに告げたいと思うようになっていた。今のダイチなら、本当に親身になって聞いてくれそうだ。
      「......あのね、ダイチくん。実は私も同じような悩みがあって......」
      「ん?」
       ダイチが反応したのはヤサコにではなかった。ポケットに突っ込んでいたメガネが着信していることに気付いたのだ。
      「悪いヤサコ。ちと電話だ。もしもし?」
       ダイチは先ほどバナー攻めでクラッシュし、復旧したばかりのメガネをかけて電話に出た。
      『ああダイチ?どこ行ったんだよ?』
      「ハラケンか。ああ、今屋上だ」
      『おっ、屋上?おい、早まるなって!!さっきのがショックなのはわかるけど、だからって飛び降りなんて』
      「何言ってやがる。さっきのがショックだったのは事実だが、オレがんなことするわきゃねえだろ。まだ全然人生満喫してねえっつーの」
      『え?そ、そうか。良かった。なかなか戻って来ないから、もしかしたらと思って』
       本気でハラケンは電話の向こうで心配しているようだった。勘違いも甚だしいが、それでもダイチは少し嬉しかった。
      「ちょっとな、ヤサコと会ったもんだから相談に乗ってもらってたところだ」
      『ヤサコに?そうだったのか。それで気分は楽になった?』
      「ああ。おかげでスッキリした。ほんと、ヤサコには感謝だわ」
       返しながらダイチはヤサコの方を振り向いて笑みを贈った。
      『それは良かった。終わったらさっさと戻って来なよ。次体育だし、まだ昼飯食べてないだろ?』
      「ああ、そうだっけな。わかったすぐ戻る。わざわざありがとな」
      『いいって。今なんかウチのクラスさ、ダイチをバナー攻めで落としたって戦勝ムード漂ってるんだよ。ダイチ側の僕や坂本がすごい居づらい雰囲気だからさ、できるだけ早く戻ってきてくれ』
      「なんだと?あいつらすぐに調子に乗りやがって。待っとけよ〜」
       ダイチは電話を切って立ち上がった。すぐに教室に戻る勢いだ。
      「そろそろ帰ろうぜ。ヤサコも飯まだ食ってないんだろ?あっ、そう言えばお前もさっきなんか言いかけてたな」
       ダイチはヤサコの言葉を待ったが、ダイチが忙しそうなのでヤサコは今日のところは置いておくことにした。
      「うん、いいの。その話は次の機会にでも」
      「そうか?じゃあさっさと戻ろうぜ」
       
       そうして2人は階段を降り、1年生の教室が並ぶフロアーまでやってきた。するとあろうことか、階段の踊り場で目下の問題の張本人であるフミエとばったり遭遇した。
      「フ、フミエちゃん!」
       ヤサコが戸惑い気味に驚いた。
      「どうしたの?ヤサコとダイチが一緒なんて珍しいわね」
       フミエはヤサコが困惑しているのに気付かず、2人を交互に見やって訊ねた。一方のダイチはと言うと、少し気まずそうにヤサコの後ろで顔を背けていた。
      「う、うん。ちょっとそこで会ったものだから」
      「そうなの。あ、そう言えばダイチ。さっきアンタバカみたいな大声出して廊下走っていかなかった?」
       訊かれたダイチはぎくっとした。
      「いや、あれはだな、サッカー部に入るつもりだから声出しの練習をしてたんだよ」
       なんと言うヘタクソなウソなんだろうとヤサコは思った。
      「アンタには羞恥心てものがないの?教室の中からも注目を集めてたわよ」
       しかしそれで納得してしまうフミエも大したものだ。よっぽどダイチのことを頭が悪いと思い込んでいるのか。そんなフミエには、先ほどの真剣に苦悩するダイチの表情なんて想像できないだろうなとヤサコは思った。
      「ねえ、ダイチくん。いっそのことお弁当のことここで訊いてみる?」
       ヤサコは小声で後ろにいるダイチに訊ねてみた。
      「で、でもなあ」
       気が進まないというのは表情でも読み取れる。しかしヤサコはダイチも覚悟を決めた方がいいと思った。
      「いつかは知らなくちゃいけないことよ。ダイチくんも早く気が楽になりたいでしょ?」
      「それはまあ」
       ダイチが渋々という風にうなずいたので、ヤサコはここでフミエに訊ねることにした。
      「フミエちゃん。ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
      「何よ?改まって」
       先ほどからダイチとこそこそ話したり、どうもヤサコの様子がおかしいなと思いながらもフミエは質問を待った。
      「フミエちゃんって、ガチャギリくんのお弁当作ってあげてるの?」
       ついに言っちまったかと顔をしかめているのはダイチだ。しかしフミエは「ああ、そのこと」と、何の隠しごとをする様子もなく口を開いた。
      「作ってるわよ。ヤサコに言ってなかったっけ?」
      「オレにも言ってねえぞ」
       ダイチが後ろから口を挟んだ。あまりにも軽いフミエに対し、そんな大事なことをさらっと言ってくれるなよという憤りがダイチの中にはあった。
      「アンタもガチャから聞いてないの?ナメッチは知ってるはずだけど」
      「だからなんでなんだ?」
       どうしてダイチがそんなに興奮しているのかわからない様子でフミエは答えた。
      「いやさ、ガチャの家の経済事情が苦しいのは知ってるでしょ?アイツ先週の1週間、1回も弁当も持って来なかったし、購買部にお昼ご飯も買いにも行かなかったのね。楽しいはずのランチタイムに1人後ろでずっとぼーっとしてるのがほっとけなくてさ」
      「え?それが理由?」
       拍子抜けしたように訊ねたのはヤサコだ。ダイチは口を半開きにさせたまま固まっている。
      「それどういう意味?もっと他の理由を求めてたの?」
      「い、いやあ、そういうわけじゃないよ。それじゃあこれからガチャギリくんの弁当はフミエちゃんが用意するの?」
       その質問にフミエはかぶりを振った。
      「いや、私は暫定的にやってるだけ。ナメッチが調理研究部に入るって話は知ってる?その活動が本格的に始まった時には、ナメッチが部活の時に作ったものをガチャのお昼ご飯にするってことで話はついてるわ。ガチャはあんまりいい顔しなかったけど、やっぱ食欲には勝てないらしいわ。食べ盛りだしね。もちろんこの話が広がるのはガチャも望んでないのはわかるでしょ。アンタ達だから言うけど、人に話したらダメだからね」
       フミエが念を押すように言った。ヤサコはその説明で納得し、ダイチも隠してはいるが安心したような表情を見せた。そんなところでついでにヤサコは軽い口調で言ってみる。
      「なんかさ、フミエちゃんとガチャギリくんが付き合ってるみたいな噂があったから、そのお弁当のことで本当なんじゃないかって思ってたのよ」
      「ブッ。何それ?誰情報?私とアイツがそんな関係になるわけないじゃない。アイツとは敵同士よ。だいたい私はああいうネクラなのはタイプじゃないし」
       フミエのその言葉でダイチが抱いていた疑念は完全に晴れたようだった。さっきまでの沈んだ表情がウソのようにすっかり上機嫌だ。
      「そうかそうか。じゃあ悪いがうちのメンバーにたっぷりと栄養つけさせてくれよ」
       ダイチは高笑いしながら上その場を去って行った。ヤサコはどうも複雑な気持ちでそれを見送る。
      「何なのアイツ?情緒不安定?」
       ダイチの感情の浮き沈みが激しいのはフミエも見抜いていた。悲しいかなその原因が自分であることを自覚していないだけだ。
      「フミエちゃんもさ、早く気付いてあげてよ」
      「何を?」
       少し疲れたように言ったヤサコをフミエがいぶかしげに見る。
       これでまたダイチとフミエがくっつく日は遠のいたなとヤサコはため息をつく。「そんな人の心配している場合?」というアイコの声が聞こえたような気もした。


      ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


       今週は以上です。来週はクラブ活動を見学に行きましょう。
       
       













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      2015.02.13 Friday 23:13
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        コメント

        どうも、川島です。

        こういった番外編を書いていると、今回のような新鮮な組み合わせを考えてみたくなります。正直アニメではキャラ同士の絡みが少なかったので、どの組み合わせでもそうなるんですけどね。片思いを抱えているこの2人というのは、結構相性がいいのではないかと思って今回は描いてみました。此花さんのおっしゃるような、ヤサコとダイチが噂になるような展開も考えたんですけど、それをするとややこしくなるので今回は見送ったというところです。

        中学生っていうのは、男子も女子もこういった恋話は盛り上がりますよね。それをほとんど冷やかしで楽しむのが中学生クオリティーだと思います。特に男子はそうでしょうね。それを承知で公然と付き合っているのを認める強者も中にはいます。そういうのに限って、噂を聞くたびに相手が変わっていたりするものですけどね。

        コイルメンバーもそういった中学生らしい騒動にこれからも巻き込まれていくのでしょう。それを想像するのも一興です。もしかするとハラケンがアイコに盗られたり、ヤサコとダイチが引っ付くような展開も中学なら大いにあり得ると思います。その混沌を経験してやっぱり元の鞘に収まるというのが、高校進学の辺りになるんでしょうかね。

        とにかく、僕はあまり組み合わせを決めつけない方が面白いなと思います。

        最後に。此花さん、お気遣いありがとうございます。ようやくヤマは乗り越えたという感じです。

        | 川島奏 | 2010/09/24 12:36 AM |
        こんにちは、此花です。

        ダイチとヤサコの会話は、本編では少なかったですね。ぱっと思いつくのはヒゲ事件の「誘拐」発言くらいですか。ふたりは小学校だけならまあ水と油ですから当然なんでしょうが。それが中学に入るとこうも変わってくる。おもしろいですね。ふたりのメンタリティが近づいたとまでいえるかはわかりませんが、共通項ができたということなんでしょう。私はやはりダイチが、心も中学生へと成長したんだと思います。踏ん切りのつかない感情を抱える者同士、これからふたりは意外といい友達になるかもですね。そうすると今度はダイチとヤサコの恋愛疑惑が生まれて、ハラケンが悩むかもしれませんが。

        さて次回は部活動ですか。最近の展開、なにやら自分の中学時代を再体験するようでとても楽しみです。複数の連載を抱えてお忙しいでしょうが、お体にはお気をつけてがんばってください。
        | 此花耀文 | 2010/09/22 2:35 AM |

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