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    川島の本棚 第12回 『龍神の雨』

    2012.04.08 Sunday 21:28
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        まずはお知らせから。先日お伝えしていた通り、これから『3.00』の連載を移すことになる此花さんのブログが開設致しました。このブログからもリンクを貼っておきますので、チェックしてみてください。一応、ここにもURLを載せておきます。

       さんざめきの始まりの終わり
       http://verklaeren.blog.fc2.com/

       さて、今週は久しぶりに道尾秀介氏の作品をご紹介します。先日文庫化されたばかりの『龍神の雨』です。

















          





         『龍神の雨』新潮文庫

       氏の小説は、以前にご紹介した『向日葵の咲かない夏』を含め8作ほど読みましたが、個人的な感想として、この作品は最上位に位置づけられます。僕の好みなど色々とありますが、登場人物の感情描写の面でとても緊迫感があったかなと。

       それでは簡単にあらすじを。

       添木田蓮(そえきだれん)と妹の楓は事故で母を失い、継父と三人で暮らしている。溝田辰也と圭介の兄弟は、母に続いて父を亡くし、継母とささやかな生活を送る。蓮は継父の殺害計画を立てた。あの男は、妹を酷い目に遭わせたからーーーそして死は訪れた。振り続く雨が四人の運命を侵してゆく。彼らのもとに暖かな光が射す日は到来するのか?

       ご覧の通り、話としてはかなり陰鬱です。しかし改めて思うのは、力のある作家は「陰」の作品にこそ引力があるということです。終始暗いトーンで進む『向日葵』の時と同様に、ページをめくる手が止まらなくなりました。

       特にこの作品は、タイトルの通り「龍」が一つのモチーフになっていて、登場人物達を呑み込もうとする運命が、想像上の生き物としての圧倒的な存在感を放つ「龍」になぞらえて描かれています。運命とは人の目には見えなくて得体の知れないものです。彼らを待ち受ける過酷な運命こそが、読者を作品に引き込む引力となっています。

       もう少し、詳しく内容を紹介していきましょう。主要登場人物は少なく、スポットが当てられるのは二組の兄弟です。

       一方が添木田蓮と楓の兄妹。蓮は半年前に高校を卒業した19歳で、妹の楓は中学校3年生です。実の父親は二人が幼い時に家を出ていき、長く母との三人暮らしが続いていました。その母も一年ほど前に再婚し、睦男という男性が二人の新しい父親になります。ところが、母は再婚してから間もなく交通事故で亡くなり、二人はついこの間まで赤の他人だった睦男と三人で暮らしていくことになったのです。

       しかし睦男は当初の印象とは違ってどうしようもない男で、酒に溺れ、二人に暴力を振るい、あげく働いていた会社も辞めて家に引きこもるようになります。蓮は高校を卒業して酒屋で働き始めていたので、彼の稼ぎと母の保険金でなんとか家族は食いつないでいる状態でした。

       蓮と楓は、この新しい父親を疎ましく思っていました。蓮は睦男に居なくなってほしいと切実に願い、しかしその願望を胸の奥に沈めて、歯を食いしばりながら毎日を送っていました。

       ところが、蓮の中に睦男への明確な殺意が芽生える出来事がありました。睦男は妹の楓に対する性的欲望を垣間見せていたのです。

       それを知った蓮は睦男を殺すための計画を立て、ある台風の日、実行に移します。そして、蓮にとっては思いがけない形で睦男には死が訪れることになります。

       そしてもう一方の兄弟。溝田辰也は中学2年生、弟の圭介は小学校5年生です。二人の実の両親は既にこの世から去っています。心臓の弱かった母親は二年前、家族で海に遊びに行った時に発作で亡くなったのです。圭介はある理由から、母を殺したのは自分自身だと思い詰めていました。

       その後、彼らの父は以前まで職場の後輩だったという里江という女性と再婚します。亡くなった実の母親にとっても、父と里江の関係に複雑な感情があったのは推察できます。その里江は奇しくも、二人の実の母親が亡くなったあの日、海の家の従業員としてその場にいたのです。

       そんな里江が母親になって、態度を急変させたのは兄の辰也でした。辰也は頑なに里江を母と認めないという態度をとるようになります。弟の圭介は、本意ではないながらも、辰也に同調する姿勢をとっていました。

       ところが、今度は父親が膵臓がんで亡くなってしまいます。心を通わせるつもりのない兄弟と、里江との三人での暮らしが始まったのです。

       境遇の似たこの二組の兄弟。運命は「龍」のようにうなり声を上げて、彼らを引き合わせ、嵐の中に巻き込みます。

       道尾氏のミスリードを誘う文章構築はいつもながら見事。どの作品でも、どういう風にひっくり返してくれるのだろう、と期待して読むことができます。

       そして今作は上でも書いたように感情描写に緊迫感があって良かったです。特に殺害計画を立てた蓮の心は、恐怖や後悔、一方で妹を守らなければという使命感など様々な感情が綯い交ぜになっていて、並の精神を持つ人間が一線を越えてしまった時の動揺が見事に表現されているように感じました。

       最後に、二組の兄弟は事件を通して「家族とは?」という問いにそれぞれ答えを得ます。全体を通して暗いお話ですが、そこに救いがあるので読後感は悪くありません。全体的にもスッキリとまとまって、ミステリーとしても人間ドラマとしても読み応えのある一冊だったと思います。







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