奏作空間

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    『電脳コイル 関西edition』第2話 後編

    2011.02.11 Friday 23:25
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       最近暖かくなったなあと思ったら、今日なんか大雪でしたね。どうなっとんねん。とは言いつつ、3連休初日の今日は家でぬくぬくしながら発売したばかりの『戦国無双3z』で遊んでましたけどね。ちなみに大河の『江』は見てないです。初回はちらっと見ましたけど、すごいファンタジーチックですね、あれ。

       では今週も関西editionの続きです。


      ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

      #02 「メガシ屋の主、銭ゲばあ」 後編

      「何が欲しいんじゃ?」
       メガばあがじっとウチの方を見て訊ねた。今とりあえず欲しいのはデンスケを治療するためのバグ取り薬。あるいはネット上のワクチンを適当にダウンロードするならダウンロード促進剤の方が安上がりやけど。それからさっきの激闘ですっかり使い果たしたメガビーの補充。あとは、一応壁も補充しとこかな。その辺は値切り交渉次第で財布とも相談しながら決めよ。
      「バグ取り薬と、この間のダウンロード促進剤はいくらなん?」
       値段はメタバグの仕入れ量によって変動する。まずはそれを確認することから買い物は始まる。
      「バグ取り薬30万円、ダウンロード促進剤20万円」
       うん、バグ取り薬の30万円は確かに安い。でもダウンロード促進剤で、ワクチンソフトをダウンロードした方がええか。
      「ダウンロード促進剤、15万円にならんかな?」
      「うん?これでも会員価格でだいぶ割り引いとるんじゃがな」
       まあ、言い分はわかる。正直15万円で手に入る店なんてここ以外にはない。ただ、交渉材料もないこともない。
      「ダウンロード促進剤って、新商品やけどそんなに売れてるん?たかだかダウンロードがちょっと早くなるだけで、必需品やないし。何なら、在庫をウチが全部買い取ってもええねんで。後どのくらい残ってるの?」
      「そうじゃのう、最初に作った分で残り10枚ぐらいかの。まあ、確かに需要がないのは認めるわい」
      「残り10枚、1枚15万円で買い取ってもえーで。もちろん税込みでその値段で」
      「そうするとワシにほとんど儲けはなくなる」
      「ええやん。ウチぐらいしか買いに来ない売れ残りを処分できんねんから。ウチも電脳ペット探しでそれ使うことも多いし、それで手打たへん?」
       電脳ペットを探し出した時に、そのペットがバグを持ってないかを確認することもある。もしそのペットがバグを持ってた時、ダウンロード促進剤があれば手早く作業が終わらせられる。サービス料は依頼料に上乗せすれば、ウチが買い取っても損はせーへん。普段ペットがバグにかかることなんてないから、一般のお客さんにそれほど必要とはされてないし、いい取引やと思うけど、銭ゲばあ?
      「わかったわい。そこまで言うならダウンロード促進剤10枚を150万円ぽっきりで持ってけ」
       うーし。ちょっと大きい買い物になったけど、それでも150万円なら損失はそない大きくないな。
      「それからメガビーも欲しいねんけど」
      「メガビーは10秒300万円じゃ。悪いがこれはもう値下げできんぞ」
       いつも思うけど、10秒で300万円はちょっと高い。10秒なんてあっという間やからな。しかも慣れんうちは攻撃をはずすことも多い。ただ、サッチーにメガネ破壊されて修復ダウンロード費お年玉2年分(2億9800万円)が飛んでいくことも考えると、これはどうしても装備に入れておきたい。その意味じゃ良い値段設定ではある。ここはヤサコをうまく使ってなんとか値切りできんかな。
      「じゃあ40秒で1000万円てのはどう?」
      「バカを言っちゃいかん。そうすると10秒で250万円じゃないか」
      「別に10秒250万円で欲しいって言ってるわけちゃうよ。40秒買うから1000万円払うって」
      「ダメじゃダメじゃ。メガビーはウチの人気商品じゃての。いくらフミちゃんでも、その価格で売ることは認められんわい」
      「私ちゃうよ。ヤサコにも買ってあげんねんから」
      「えっ?」
       後ろで様子を見守っていたヤサコが驚いたように声をあげた。
      「20秒はウチの装備の補充。残りの20秒はヤサコの装備に加える分。メガビーも慣れないうちははずしまくってすぐに使い切ってまうから、このくらい装備しといた方がえーで」
      「いや、ちょっと、頼んでないんだけど」
      「しっ!悪いようにはせーへんから黙って見とき!」
       ウチはヤサコに言い聞かせてメガばあに向き直った。
      「相手がどちらさんでも一緒じゃ。その値段では売れん」
      「話聞いてや。ヤサコはこれからこの危険な大黒で暮らすことになるんやで。少しでも気を抜いたらあっと言う間にサッチーに撃たれてお年玉2年分が飛んでいくのに、そのお年玉を孫にあげるのは誰なんよ?」
       ウチは我ながらえーとこ突いたと思ったら、メガばあは不敵に笑った。
      「フォッフォッフォ。その心配はしとらん。孫がお年玉をどう使おうがワシには関係ないことじゃし、修復ダウンロードに費やしたのならそれもそれで勉強じゃわい。第一、優子の元にそんな金が舞い込めばの話じゃがのう」
      「ど、どういう意味なん?」
       まさかこの銭ゲばあ。お年玉もケチって渡してないんちゃうか。あり得るな。うん、あり得る。実のおばあちゃんからお年玉ももらえへんなんて、なんてヤサコは不憫な子なんやろ。そう思ってた時やった。
      「優子?来年の正月、久々に”あれ”やるかえ?」
       あれ?
      「いっ、いやよ!絶対おばあちゃんとは花札なんかやらないから!」
       花札?
      「一体なんなん?」
       ウチはメガばあとヤサコの両方を見やった。口を開いたのはヤサコやった。
      「私が8つの時に、おばあちゃんお年玉くれたの。すんごい額」
      「それはまた珍しいな。それで?」
      「そのすぐ後、花札やろうって倍額巻き上げられたわ」
      「アハハッ。メガばあらしいなそれ。なるほど、そういうことなんか」
       メガばあからお年玉をもらっても、ヤサコは逆にお金を巻き上げられるだけ。せやったら、ヤサコのお年玉を交渉材料にはできひんな。あ、でもえーこと思いついたかも。
      「それやったら、こーせえへん?来年のお正月にヤサコがメガばあとお年玉を賭けたを花札するかわりに、メガビー40秒1000万円でウチらに売る」
      「何言ってんのフミエちゃん!?そんなの、私が大損するだけじゃない!」
       ヤサコがすごい剣幕でまくしたててきた。
      「勝ったらえーねん勝ったら。その時はウチも応援するから」
      「簡単に言ってくれるけど、おババの花札の強さ知ってるの?この道50年のベテランなのよ!」
      「たまに遊びでやってるから実力はわかってる。でもなあ、ギャンブルは結局のところ運やで。イカサマせーへん限りな」
       そうしてウチはカウンターのメガばあを見やった。
      「どう?メガばあからしたら、ヤサコをひねるなんて簡単やろ?それ考えたら、40秒1000万円は安いもんやんなあ?」
      「ワシはそれでもええぞ。後は優子の意志次第じゃ」
      「私は!」
      「まあまあ」
       思いっきり拒否しそうやったヤサコをウチは優しくなだめる。
      「そうやって逃げてばっかりじゃあかんやろ。人生時には攻めへんと。サッチーに追われてるときも同じやで。逃げてばかりじゃ、いつかどこかで追いつめられる。そうなる前に、抵抗を試みるのもうまく逃げるコツなんやで」
      「サッチーは関係ないわよ。人のお年玉だと思って」
      「せやったらウチのお年玉も使たらえーよ。それなら納得できるやろ」
       するとヤサコは何かに気がついた表情になった。
      「ん?ちょっと待って。今は40秒1200万円のメガビーを1000万円に値切ろうとしてるのよね?」
      「せやで」
       何を今さら。
      「それを認めるとオババは200万円も損するんでしょ?私のお年玉を巻き上げても高々1万円なのに、なんでそんなに乗り気なのよ?」
       ん?この子、もしかしてずっと勘違いしてた?
      「何言っとるんじゃ優子は。こんなもんが本当に1000万円もするはずがないじゃろう。そんなに良い商売なら、ワシはビバリーヒルズに豪邸を建てて暮らしとるわい」
      「え?」
       ヤサコはきょとんした。まったく、ほんまに信じ込むとは思えへんかったわ。相当天然やな、この子。
      「さっきからウチらが値付けで万円、万円って言ってるけど、それは余計やからな。ウチかて電脳ペット探して200万円も貰えるんなら、芦屋の六麓荘(兵庫県芦屋市の六甲山の麓にある高級住宅地)に家建ててるって」
      「......それならそうと言ってよ!恥かいちゃったじゃない!」
       ヤサコはそこで顔を真っ赤にした。おもろ。
      「で?結局メガばあとお正月に勝負してくれるん?」
       話が途切れたのでウチは改めて聞き直した。
      「ちょっと待ってよ。今問題なのは目先のメガビーが200円安くなるかどうかでしょ?なんでそのためにお正月に1万円レベルの賭け事をしなきゃいけないの?それならここで200円渡した方が賢いじゃない」
      「せやから、それはアンタが負ける前提で考えてるからやろ。それにな、目先の200円かてバカにはできひんで。メタバグもそろそろ見つからんようになってきた昨今、いつこのメガシ屋が閉まることになるかもわからへん。今のうちに有効なアイテムはお得な値段で買い占めた方がええねんて。じきにメガビーも10秒500円ぐらいになるってウチは踏んでるからな」
      「それでも......」
       ヤサコはまだ渋るようやった。しゃーないなあ。
      「メガばあ。この子、探偵局に入れてウチが鍛え直すわ。この子も商売っていうものがわかれば、もう少し強かになれると思うねん。賭け事でこんなナヨナヨしてたら、先が思いやられるわ」
       ウチは声を細めてメガばあに提案した。
      「それはこっちとしてもありがたいがのう。最近はフミちゃんしか駒、じゃなかった、人手がいなかったからワシもメタバグの仕入れに困っとったところじゃ。よし、もし優子の勧誘に成功したら、レンガ壁10枚もおまけにやるわい。これでどうじゃ?」
      「ほんまに!?やったあ!じゃあ以上で」
      「うん。ダウンロード促進剤10枚150万円とメガビー40枚1000万円で合計1150万円じゃ。レンガ壁は成功報酬じゃて、うまくいったら後で取りにくるがええ」
      「おおきに。じゃあこれでちょうどな」
       ウチは1150円を現金で支払って商品を受け取った。こんなにここで安く買えたんは初めてかも。やっぱりヤサコをダシに使ったのは成功やったな。これで後はこの子を探偵局に入れればレンガ壁10枚もおまけがくるなんて、グッシッシッシ。
      「結局どうなったの?」
       店先に出たところでヤサコが訊いてきた。
      「ああ。ウチの言い値で買えたで。ありがとな」
      「待ってよ!私まだオババと勝負するなんて言ってないわ!」
      「そのことは、まあ保留ってことで。安心し。アンタの意に反することはせーへんから」
      「なんかすごい不安なんですけど」
       アンタはこれからウチやメガばあの色に染めてあげるやん。商売始めたら、頑張ればお年玉1年分ぐらいすぐに稼げるしな。
       
       そんなこんなで、ウチはデンスケの治療のために新築のヤサコの家に上がらせてもらうことになった。
      「おっじゃましまっす」
      「遠慮しないで」
       えーなあ。ピカピカのフローリングのリビングに明るい天窓。そこを抜けたすぐのところがヤサコの部屋らしかった。
      「うわーきれい、最高。このダンボールさえなければね」
      「そうやな」
       正直ウチの弟にはこのダンボールを持たせて、早々にウチの家から追い出したいわ。そしたらウチは子供部屋を独占できる。
       なんて考えてたら、目の前のダンボールが急に動いた。なんや。
      「京子!」
      「ウンチ!」
       そのダンボールから出て来た小さい女の子は、こっちを指差してそう叫んだ。失礼な。
      「ワハハッ。ウンチ!」
       と、ウチが唖然としてる間に脇をすり抜けて部屋を出て行った。
      「マイブームなの。何も手も指差してウンチ」
       いたたまれない顔をしてヤサコが言った。なんか、コメントしづらいわ。
       
       とりあえず静かになったところで、ヤサコはデンスケの犬小屋を出してそこに寝かせた。さっきからほったらかしにしてたけど、だいぶ参ってるようやな。
      「ウイルススキャンは......良かった。ウイルスには感染してないみたい」
       と、しばらく様子を見てたら”修復ダウンロードエラー”の文字が現れた。
      「あれ?修復が進まない」
      「促進剤でも貼ってみよか」
       ウチはデンスケにメタタグを貼った。するとエラーメッセージは消えていった。これで一応大丈夫かな。
      「おおっ」
       ヤサコが感心してるところで部屋の扉が開いた。ヤサコのお母さんやった。
      「いらっしゃい。さっきは恥ずかしいとこ見られちゃって」
       恥ずかしいのはメガばあやから、全然気にすることあれへんのに。
      「お邪魔してまーす」
      「せっかくお友達になってくれたことだし、お夕食一緒にどうかしら?」
       やったあ!こんなどこの馬の骨かもわからん小娘に、なんて心優しい人なんやろ。
      「ゴチになります!」
       そうしてウチはヤサコと2人でカレーをいただいた。やっぱり、新居で食べるカレーは格別やな!
      「ねえ。メタバグって一体なんなの?」
       食事の最中、ヤサコはふと訊ねてきた。その説明もまだやったか。
      「さっきデンスケの貼付けたメタタグがあるやろ。それの原料やねん。現物見てみる?」
       ウチはポシェットから1つ取り出してヤサコに見せた。
      「きれいやろ。普通のバグはペットマトンや空間を壊すだけやけど、偶然役に立つ機能を持ったバグが出ることがある。それがメタバグやねん。なんでか知らんけど、大黒市でしか取れへんの」
      「だよね。金沢じゃ見たことないもん」
      「でも最近サッチーが片っ端から消去してもうて、数が減って来てんのよ。さっきも言ったけど、そのおかげでメタバグの値段が上がってて、メガシ屋も近々値上げに踏み切らなあかんくなると思うねん。ウチがメタタグを買い占めたのも、そういうのを見越したからやけどな」
      「ふーん」
       さて、お腹も満たされて気持ちもほぐれたところで、ウチはあの話を切り出すことにした。
      「さて、ヤサコ。話があんねんけど」
      「何?改まって」
      「うちのクラブに入らへん?」
      「クラブ?」
      「コイル探偵局っていうんやけど。活動はかいつまんで言うと、今日私がやったような行方不明の電脳ペットの救出とか」
       実際のところ、メガばあに相当こき使われるけどな。特に最近はメタバグも減ってきたから、かなり探し回させられたし。そういったウチの負担を減らすためにも、ヤサコには是非とも入っていただかないとな。決してレンガ壁10枚が惜しくて言ってるわけやあれへん。
      「さっきオババと相談してたのはそういうことだったのね。私の入会と引き換えに割り引いてもらったってわけか」
       ヤサコは少々呆れ気味やった。
      「正直言うたらそうなるな。でもヤサコもさ、メガばあのこと苦手なんやろ?このままでいいん?これから一緒に住むことになんのに、今のままやったらしんどいで。せやから、ウチがメガばあへの対処法も教えるから。な?入会してや」
      「その心遣いはありがたいし、活動の内容も興味深いよ。今日だってデンスケを助けてくれたのは感謝してるし」
      「そやろ。人を助けるっていうのも、気持ちいいもんやで。それは報酬とは別にしてもこの商売してて良かったと思えるところや」
      「......でも、冒険なんかじゃ何も変わらないわ」
       ヤサコはうつむいてそう言った。なんなん?その小説みたいな意味深な言葉は。前の学校でなんかあったんやろか。まあでも、これだけ誘っても乗ってこないってことは、ちょっと今日は難しいかもしれんな。メガばあとも相談して、日を改めてまた誘うことにしよかな。
      「......わかったわ。強制はせーへん。じっくり考えといて。また誘うと思うから」
      「ごめん。わがまま言って」
       そんなに後ろめなくてもえーのに。ウチが半ば強引に入会させようとしててんから、そんな顔されるとこっちが申し訳なくなるわ。
       ひとまず今日はおいとましようかなとウチが立ち上がった時、デンスケの小屋のアラームが突然鳴り出した。見たら修復ダウンロード最中にまたエラーがあったらしい。
      「やだ、なにこれ?」
       ヤサコがそのエラーメッセージを消そうとしてもあかんかった。これは普通のバグではないとウチはそこでようやく気付く。デンスケを膝の上に置いて、獣医さんのようによく体を調べてみると、舌のところに奇妙な模様が浮かんでいるのを見つけた。
      「やっぱりイリーガルに感染してるな」
      「イリーガル?」
      「アンタが見たっていう黒い生き物や。ペットマトンに寄生するコンピューターウイルスやねん」
       これは厄介やな。ウチもこの目でイリーガルに感染してるペットは初めてや。
       とりあえずヤサコにはメガネ関係の情報掲示板サイトを出して、イリーガルに感染したペットの画像を見せた。どれを見ても、デンスケと同じような模様が浮かんでる。死ぬかどうかは書いてあれへんけど、危険な状態には変わりない。ヤサコの表情もだいぶ不安げになった。
      「薬練ってやるぞ」
      「うわあ!」
       窓の向こうにメガばあがおって超ビビった。どっから現れんのよまったくもう。この部屋も、既に盗聴されてんのかもしれへんな。まあ、どの道ウチの手に負えへんかったからちょうど良かったけど。

      「これはどこからか何かをダウンロードしておる」
      「それはわかってるわ。一体どこから何を?」
      「どこかから何かをじゃ」
       まじめに答えたりいや。
      「頼りにならんなあ」
      「バカもの!これはただのダウンロードではない。デンスケのメカタを増やして、勝手にダウンロードしておるのじゃ」
      「なんやて!?」
      「どうしよう?」
      「まずはダウンロードを止めることじゃ」
       メガばあは立ち上がった。メガばあも本気出せば頼りにはなる。
      「オババ、何とかできるの?」
      「ワシに任せるのじゃ」

       ウチらはメガばあの薄気味悪い電脳工房に移動した。まずはメガばあ恒例の仏壇へのお祈りが始まる。その行為にどれほどの意味があるんか、ウチにはわからん。
      「オババなにしてるの?拝んでる場合じゃ」
      「そう焦るでない」
       そう言ってメガばあが鈴を鳴らすと、部屋の真ん中にでかくてけったいなメカが姿を現した。どっから材料を調達してどうやって作ったのか、ウチも知らん。
      「ワシの電脳工房にようこそじゃ」
       メガばあはさっそくその装置をいじり始めた。今はデンスケ治療のための処方箋をどう調合しようか考えてるところやろな。
      「まずメタバグの目を読むのじゃ」
      「そうするとどうなるの?」
      「メタバグは1個ずつでは何の役にも立たん。じゃがな、つなぎ合わせると」
       メガばあは在庫の中から取り出した2つのメタバグを拡大鏡の向こうでこともなげにつなぎ合わせる。簡単にやってるように見えるけど、この作業はメガばあの神髄が垣間見えるところでもある。
      「ああ、すごーい」
       ヤサコも思わず感嘆の声を上げた。
      「目の読み方、力の入れ方どれも精進の賜物じゃ」
      「これができるんはメガばあだけやねん。並のばあさんじゃないんやで」
      「余計なこと言うでない」
       メガばあはウチを叱るとすぐにメタバグを加工し始め、メタタグが完成した。
      「できあがりじゃ」
      「メタタグってこうやって作るんだ」
       するとメガばあは出来上がったメタタグをドラエ○んのように頭上に掲げて言った。
      「電脳虫下し!」
      「虫下し?」
      「ワクチンソフトのことや」
      「悪い虫には虫下し。コンピューターウイルスにはワクチンソフト」
      「良かったあ。じゃあデンスケ治るのね?」
      「かわいい孫のためじゃ」
       ん?タダであげんの?どういう風の吹き回し?
      「おばあちゃんありがとう」
      「その代わり条件がある」
       するとメガばあはコイル探偵局のバッチを取り出した。しかも八番ということは、ウチの次や。
      「ああ、メガばあ。さっきヤサコ誘ったんやけど、あまり乗り気やないみたい」
      「なぬ?どうしてじゃ?」
       ウチの言葉を聞いてメガばあはヤサコの目を見た。
      「......どうしてって言われても、なんか、そういう冒険はもういいかなって」
       もういい?どういうことなんやろ。この子電脳には疎いし、何か危ない目に遭ったこともないように見えるけどなあ。
      「そうかえ。残念じゃのう。じゃったらそのメタタグだけ持っていくがええ」
      「いいの?お金は?」
      「どうせ大した持ち合わせもないじゃろう。デンスケは治してやらんとかわいそうじゃ。コイル探偵局のことは、お主の気が変わった時にまた考えてくれればええ」
       なんか、こんな寂しそうなメガばあを見るのも初めてやな。やっぱり孫に断られたのはショックやったんかな。それにしたって、メガばあがタダでものをあげるなんて。

       ともかく、これでデンスケは治るやろ。ヤサコの部屋に戻ってウチはもらったメタタグを早速デンスケに貼付けた。
      「あ!」
      「どうしたん?」
      「だって、分離したらあの黒いのが飛び出してくるんでしょ!」
       ヤサコは座布団を持って身構えてる。そんなんじゃイリーガル倒されへんいうのに。
      「大丈夫や。この分やと解析には明日までかかるわ分離が始まるのはその後」
      「そうなんだ」
       あ、そうそう。忘れるところやった。さっき買ったメガビー、この子にもちゃんと分けたらんと。
      「ヤサコも自衛のためにメガビーは持ってた方がええで。ほら、これで20秒分あるから」
      「メガビー?私、ああいうのはちょっと」
       なに遠慮してんのや。使いこなせたらカッコいいのに。
      「えーからえーから。サッチーに撃たれたら、データの修復にお年玉換算で2年分飛んでいくねんで。しっかり使えるようになっときや。冒険する気はなくても、この街じゃボーッと歩いてても危険は襲いかかってくるからな」
      「......わかった。ありがとうフミエちゃん」
       もちろん。
      「タダであげるねんて言うてへんで。20秒分500万円。きっちりもらうよ」
      「ええっ?」
       タダより高いものなんてあれへんねんから。ウチはきっちり代金もらって今度こそおいとますることにした。
      「じゃあ、何かあったらすぐ電話してや」
      「ありがとう」
       やっと長い一日が終わろうとしてた。あの子、冒険はしたくないって言うてたけど、あれはフラグやと思うねんなあ。なんか、これから今日より大変な目に何度も遭いそうな予感がぶんぶんするわ。

      (第2話 終わり)

      ーーーーーーーーーーーーーーーーー

       今回ヤサコには小説版っぽいセリフをつけました。フミエ目線で終始進むこの物語において、ヤサコの過去もまた謎の1つということで、この辺もオリジナル色が今後出て来るのではにでしょうか。

       というところですが、再来週は気分を変えて、また川島の本棚か、別の企画を立てたいと思います。それでは。


       

       
       









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      『電脳コイル 関西edition』第2話 前編

      2011.01.28 Friday 22:44
      0
         
         遅くなりましたが先日、ようやく小説版の最終巻を読み終えました。感想の方はまたおいおい取り上げることになると思いますが、アニメと同様に終わったところで爽やかな気持ちになれたのでとても良かったです。

         小説版を読破してとりあえず一言。猫目宗助、アンタいいやつだわ。こっちで悪く書くのが忍びないわい。(彼の悪人像はアニメを見直して再構築する必要がありますね。『春』では随分ご無沙汰ですが、そろそろ出番があるかも、ね。)

         それは置いておきまして、今週は『電脳コイル 関西edition』の第2話前編をお送りします。


        ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         #02「メガシ屋の主、銭ゲばあ」 前編

         ホラー映画さながらに建設中の建物から姿を現したサッチー。その腹部に空を舞っていたキュウちゃんが合体する。
        「ボクサッチー。ヨロシクネ」
        「しゃべったあ!」
        「こっちや!」
         怯んだ小此木さんに声をかけて、ウチは黒バグスプレーを取り出し、右手の壁に散布しながら駆け出した。サッチーはまず黒バグの方に気を取られるはずや。その隙にウチらは振り返らんと来た道を戻るように逃げた。
        「あれは一体なんなの?」
         走りながら彼女が訊いてきた。
        「あれがサッチーや。撃たれたらメガネ壊されるで!」
        「ボクサッチー」
         やばっ。もう追いついてきてるやん!あんな巨体で、結構機動力もあるからほんま難儀な存在やで。
        「ああっ!鳥居は、鳥居はどっちや?」
         いらんこと考えてたら、頭の中の地図が飛んでもうた。もう、こんな時になにしてんのウチ!
        「ああ!」
         迷ってる間に、目の前にはキュウちゃんが現れた。ここは壁の出番か!
        「それっ」
         危ないタイミングやったけど、レンガ壁が開いてキュウちゃんをブロックした。すぐにキュウちゃんの光線が壁に向けられる。ウチはその間に必死に道を思い出そうとした。そうや!向こうに確か鳥居があったはずや!そっちの方を向いてウチはそれを確認した。
        「こっちや!」
         駆け出したところで、今度はさっきのサッチーが目の前に現れた。するとウチの手は反射的にメガビーの構えをとっとった。
        「ふっ!」
         サッチーの胴体から顔までをなぞるようにビームを浴びせかける。怯まずにしばらく照射し続けると、ついにサッチーの全体の画像が割れた。こうして文字化けしてるうちは、サッチーも動けんようになる。その隙に。
        「こっちや!」
         これで今日何回目やろ。ほんまこの子もよくついて来てくれるわ。ちょっと振り返ってみると、サッチーの方はすぐにバグが修正されて、さっきのキュウちゃんも合体して追って来るところやった。
        「うわっ!」
         その時ウチの目の前を猛スピードの車が走り抜けた。危ない危ない。歩行者信号は赤や。もう、こんな時に!
        「えっと信号、信号は......」
         ウチはポシェットのメタタグを急いでめくり始めた。欲しいのは信号を変えるヤツやけど、あれ?全然見つからへん!
        「来たあ!」
         小此木さんが悲鳴を上げる。まずいなあ。てか、なんであれへんの?ああ!そう言えばこの前、学校遅刻しそうになった時に一枚使うたな。もしかしてあれ最後の一枚やったっけ。仕方ないなあ。
        「信号なんて知らん!行くで!」
        「え?ちょっと、信号赤!」
        「大丈夫や!車はまだ遠いし、ウチらに気付いたら電脳ナビ制御で勝手に止まるようになってるから!ほら、はよう!」
         ウチは彼女の手を引っ張って横断歩道を飛び出した。赤信号、皆で渡ればってヤツやで。
        「ほら見て。サッチーは律儀に信号守るようにプログラムされてるから、渡ることはできひんねん」
         サッチーの顔が心なしかもどかしそうに見えるわ。所詮機械は人間様に勝てへんいうことやな!横断歩道も無事に渡りきったし、もう安心やと思ったその時やった。
        「サッチージェットキドウ」
         何やらサッチーが新語を唱えたかと思うと、突然尻の辺りから白いスモークが噴き出した。ウチは何が始まるんやろと思って、つい立ち止まって様子を見る。するとサッチーはなんと天高く飛び上がった。
        「うわっ!なんなんあれ!」
         まるでサッチーにはジェットエンジンがついてるかのようで、空を飛んで横断歩道を飛び越えるつもりらしかった。いつからあんな機能がついたんやろ!?とにかく全然安全確保はできてない。ウチはまた小此木さんの手を取って走り出した。鳥居はウチらの目の前や。
        「うわあ!来てるわよ!」
         小此木さんが振り返って叫んだ。サッチーは横断歩道を渡りきったところで着地したみたいやけど、十分にウチらとの距離はひらいてた。もうさすがに大丈夫やろと思って振り返ったら、またサッチーがおかしなことを言った。
        「サッチーミサイルキドウ」
        「サッチーミサイル?」
         今度はどんな技やろと見てたら、サッチーは突然腹這いの姿勢になった。あ、それもしかして、尻のジェットエンジン噴射して......
        「やば!早く鳥居の中へ!」
         ウチが叫んだのと、サッチーが発射されたのは同時やった。ウチらと鳥居までの距離はものの5メートル。サッチーとは50メートルは引き離してたのに、ほんの一瞬で、恐ろしいスピードで迫ってきた。その光景を目の当たりにしたウチはほとんど半泣きやった。
        「飛び込むんや!」
        「うわあ!」
         ウチらがギリギリ鳥居に飛び込んだタイミングで、背後からはサッチーが鳥居の結界にはじかれる時のものすごい音が聞こえてきた。一息間をおいてから振り返ってそれを見たウチは驚愕した。
        「うわあ。サッチーの頭の部分が鳥居の内側にのめり込んでもうてるやん」
         それはサッチーが見えない壁に突き刺さってるっていう感じやった。頭がのめり込んでるのは、さっきのジェットの勢いが余って結界の見えない壁も変形したからやろ。これはサッチーが鳥居の結界を破る日もそう遠くはなさそうやな。
        「ボクサッチー」
         サッチーは態勢を元に戻すと、何事もなかったかのようにその場を去って行った。それを見てようやくウチも小此木さんも大きくため息をついた。
        「助かったの、よね?」
        「うん。久々にこんな冷や汗かいたわ」
         ウチは境内の石段に腰を下ろして、息を整えることにした。

         小此木さんはちょうどこの境内の賽銭箱のウラに荷物を置いとったらしい。休憩も十分にとったところで、ウチらはデンスケの治療のためにメガシ屋に向かうにした。
        「いたたた......」
        「大丈夫?」
         彼女はいつの間にか擦りむいたらしい。
        「うん」
         ま、その程度なら問題ないやろ。ウチは彼女が荷物を持つ間に預かったデンスケを返した。随分ぐったりしてるから、早いところメガシ屋に連れて行ったらんと。
        「デンスケを助けてくれてありがとう。探偵さん」
        「フミエでえーよ」
         こんだけのピンチを乗り切った仲やからな。まあ、今後ともよろしく。
        「じゃあ、私のことはヤサコって呼んで」
        「ヤサコ?」
        「ゆうこのゆうは優しいって書くの。だから金沢ではヤサコって」
        「へえ」
         それは良いアダ名をもらってうらやましいなあ。ウチはフミエ以外の名前で呼ばれたことないし。
        「じゃあ、ウチのことは知事って呼んでもええで」
        「知事?」
         やっぱ大阪人やないとこのネタわからんか。大阪都を築いた偉大な人なんやけどなあ。
        「ううん。やっぱりフミエで」
        「そ、そう」
         ヤサコはきょとんとして話題を変えた。
        「ねえ。それよりさっきの赤いのどうしたの?」
        「サッチーは神社とか学校とか、家の中には入ってこれへんねん」
        「サッチーって一体なんなの?」
        「本当の名前はサーチマトン。略してサッチーな。大黒市の空間管理室が導入した、強力なウイルス駆除ソフトやねん」
         昔大阪の南海ホエールズで活躍した名捕手の奥さんの名前ではないので、そこは間違えないように。
        「でもすごいアホやから、メタタグとか、ちょっとルール違反のお茶目なアイテムも見境なく攻撃してくるねんなあ。ほんま迷惑やわ」
        「額から光線出すのがそれほどお茶目とも思えないけどね」
         ま、それはアンタもこの街に慣れてくれば当たり前の光景になることやけどな。
        「とにかく、はよデンスケ治療しよ」
        「うん」
         ウチは歩き出したけど、ヤサコはまだ何か気になることがあるみたい。
        「どうしたん?」
        「......ねえ、この辺って神社多いの?」
        「神社?古い街やから、いっぱいあるで。おかげでサッチーから逃げやすいねん」
         ヤサコはウチの言葉を聞いてるのかどうかわからん様子で、じっと奥にある並んだ鳥居の方を見やった。
        「ねえ、鳥居がすごくいっぱい並んでる階段ってどこかにない?」
        「この辺りで?私、生まれてからずっと住んでるけど、知らへんなあ」
        「そう......」
         なんでそんなこと訊くんやろ。
        「さ、行こ」
        「うん」
         今度こそウチらは歩き出した。すると鳥居を出たところで、ヤサコがまた別の質問をぶつけてきた。
        「ねえ、フミエちゃんって生まれてからずっとこの街なの?」
        「そう言ったやん」
        「じゃあなんでそんなしゃべり方なの?お父さんかお母さんが関西の人とか?」
         それは初対面の人には必ず聞かれることや。
        「ううん。別にそういうわけでもないねん。ウチがこんなしゃべり方なんは、多分ものすごい深い事情があるんやと思うし、もしかしたらウチがそのきっかけを忘れてるだけなんかもしれんけど」
        「理由はわからない?」
        「そ。まあ、この方がなんか人ととっつきやすいし、ええかなあって。直す気はないねん」
        「そうなんだ。違和感もないし、かわいらしくてすごくうらやましいな」
        「おおきに」
         ウチ、ヤサコとは良い友達になれそうやわ。こうやって巡り会えたのも、何かの縁かもしれへんな。

         さて、もうすぐメガシ屋が見えるところまで歩いて来て、またヤサコが訊ねてきた。
        「ねえ、心当たりってどこ?」
        「薬を売ってるところやで。ちょっと怪しいけどな」
        「もしかして、またメガシ屋?」
        「当たり。メガネの駄菓子屋で、メガシ屋いうねん」
         そしたらヤサコは眉間に皺を寄せて立ち止まった。
        「待てよ。駄菓子屋?」
        「どうかしたん?」
        「ああっ!」
         ちょうどメガシ屋が見えたところで、ヤサコは急に声をあげた。
        「なんなんなんなん?」
        「あそこ。私のオババの家......その隣が、私が引っ越す家......」
        「えっ?」
         とんだ偶然やなあ。ん?今オババって言った?
        「もしかしてアンタ、メガばあの孫?」
        「メガばあ?」
        「あの店の主のこと。本名は知らんけど、そう言えば、確か名字は小此木だったような」
         ウチは思わず手を口に当てた。この子があのメガばあの血を引いてるなんて。わからんもんやなあ。
         まあ、それやったら話は早いやろ。ヤサコかてメガばあのことは多少聞いてるやろし。とりあえず店の中に入ろうとしたら、そのメガばあと知らへん女の人が店先でなんか口論してる最中やった。
        「お義母さん!なんでこんな看板勝手につけたんです!?前来た時隠してたのはこれだったのね?」
        「ワシの土地じゃあ!ワシが何しようと勝手じゃあ!」
         えらいお取り込み中やなあ。会話の内容からして、メガばあと言い合ってる女の人はヤサコのお母さんかな?まあ、ちょっと入りにくいところではあるけど、ウチらもちょっと急いでるし、声をかけることにした。
        「メガばあ!なんかちょーだい!」
        「おおっ!フミちゃん聞いとくれ!この鬼嫁がいじめるんじゃあ!」
        「何言ってるんですか!恥ずかしい!」
         怒ってはるなあ、あの人。ま、メガばあが誰かと揉める時はたいていメガばあの方に非があるからな。ウチはそれはほっといて、ヤサコにメガばあを紹介することにした。実の孫に紹介いうのもおかしな話やけど。
        「ヤサコ。紹介するな。メガばあやで」
         って、あれ?ヤサコどこ行った?と思ったら電柱の陰に隠れとった。
        「だからイヤだって言ったのよ。オババのところに引っ越すの」
         なんかワケアリやな。後で詳しく事情は聞いたろか。

         しばらくするとどうやら嫁姑の争いは一段落したようで、メガばあはまた店番に戻った。早いところここで買い物しないと、デンスケがずっとへこたれててかわいそうやのに、ヤサコはなかなか入ってこうとせんかった。そんなヤサコをウチはムリヤリ店先まで引っ張ってきた。
        「なあ、どうしたん?」
         メガばあにえらいトラウマ抱えてるようやけど。
        「私、オババ苦手なのよ。がめついから」
        「アハハハッ!それわかるわあ!なんたって、世間じゃメガばあで一応通ってるけど、ウチらの間じゃ銭ゲばあって呼ばれてるぐらいやからな」
        「銭ゲばあ?」
        「お金にえらい執着してる人のことを銭ゲバって言うやろ。まあ、ほとんど死語やけどな。そっから銭ゲばあ」
        「フミちゃん。しっかりと聞こえとるぞ」
         げ。メガばあもそろそろ耳が遠くなってると思ったけど、そこら中にきこえる君でも仕掛けてるのかもしれへんな。あの人ならやりかねん。
        「ねえ、その薬っていくらぐらいするの?」
         ヤサコがおそるおそる訊いてきた。
        「そうやなあ。400メタくらいかなあ」
        「400メタって?」
        「大体400万円」
        「よ、よんひゃくまんえん!?」
         するとヤサコの目は飛び出さんかぎりに見開かれ、髪は天をつくように逆立った。
        「あ、そっから消費税の18パーセントが加算されるから、472万円になるなあ。メタで払えば消費税は割引きしてくれるけど、近頃メタバグって落ちてないねん。私も今メタバグの持ち合わせがないし。せこい商売やろ」
         つまり、400メタ相当の買い物をする時に400メタ分のメタバグを渡せばそれで買える。それは当然やな。そしてそれを現金で買おうとすると472万円必要になる。ところが、メガシ屋でメタバグを現金に変えようとする時、400メタ相当のメタバグを銭ゲばあは400万円でしか買い取らん。差額の72万円は換金手数料っていう名目でメガばあの懐に入る。その辺の銭ゲばあの悪徳商法について、ウチはこんこんとヤサコに説明した。
        「オババ、今でもそんなことしてるのね......」
         ヤサコは半ば呆れ気味やった。
        「いい?これからその薬を買うわけやけど、銭ゲばあは滅多なことじゃ値切らへんからな。足元見られると逆に値段つり上げてくるぐらいや。だから、絶対に弱みを見せへんこと。ここで買い物する時の鉄則や」
         これが長年ここに通ったウチの経験則やった。ここでの買い物は常に銭ゲばあとの勝負や。
        「できるかなあ?」
        「今回はウチが手本を見せる。よく見て技を盗むんやで」
         そうしてウチは勇んで入店した。ヤサコもウチの後ろに隠れるように入ってくる。
        「メガばあ。なんかちょーだい」
         これは宣戦布告の挨拶でもある。
        「それはこっちのセリフじゃ。今日はワシの息子夫婦と孫が引っ越してきたでの。引っ越し祝いになんかちょーだい」
         そう来たか。それは墓穴やで銭ゲばあ。
        「メガばあに引っ越し祝いは関係ないやんなあ?メガばあが越して来たわけやないねんから。むしろ、今日引っ越して来たこっちのお孫さんに何か引っ越し祝いを渡すべきやないの?」
         すると銭ゲばあは少し唸った。へっ、一本取ったんとちゃうか。すると銭ゲばあはヤサコの方を見た。
        「のう、優子。お主とワシは今日からお隣さんじゃ」
        「お隣さんって言うのかな。ほとんど同居だと思うけど」
        「どっちでもええが、これからお世話になる隣人に引っ越しの挨拶はないのかのう。なんかちょーだい」
         あかん。標的がヤサコになってる。このままやとヤサコがなんかカツアゲされそうやったから、ウチは間に割って入った。
        「ああ、もう。せやったら、お互い贈り物はなしで、挨拶だけしたらええんとちゃうかな」
        「そうじゃのう。優子、これからよろしくのう」
        「よ、よろしくオババ」
         これで場は仕切り直しやな。まったく相変わらず手強いバアさんやで。
        「んで、フミちゃんは何をしに来たんじゃ?」
        「買い物よ!ちょっと装備品を見に来たの!」
         タダで何かもらう作戦は諦めて、ここははっきりと言った。ここからがほんまの値切り戦争のはじまりやで。

        (後編に続く)

        ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         今週は以上です。早くも設定が崩壊し始めましたが、まあアニメとまったく同じというのも面白くないので。これからもだんだんぶっ飛んで来ると思います。次回は電脳グッズ値切り戦争勃発。なんか趣旨変わってきてますよね。早くイサコ出ないかなあ。

         それではまた再来週。









        『電脳コイル 関西edition』 | comments(0) | trackbacks(0) | - | - |

        『電脳コイル 関西edition』第1話 part2

        2011.01.14 Friday 23:05
        0
           
           『電脳コイル 春』は年明け最初の更新にて、ついに総パート数200を突破しました。去年100部を突破した時もお知らせしたのですが、正直笑えない数をこなしていることを再確認し、ここまでくると逆に笑うしかありません。ほんと長いこと引っ張ってしまって申し訳ないです。

           さて今回から、去年の夏に一発試作版を作った『電脳コイル 関西edition』の連載をスタートさせます。コンセプトのおさらいをしますと、本作はアニメ「電脳コイル」のお話を、フミエが関西弁で語るというスタイルで進めていきます。基本的に展開はアニメとまったく同じ線をなぞろうと考えているのですが、そうするとただ関西弁になっただけでだんだん飽きてくると思うので、アドリブは色々と加えていきます。最終的にはフミエがイサコを救いに行く物語になったりして。

           まったく終着点とか考えていませんが、とりあえず数は稼げるだろうということで、今年のブログはこの物語を軸にぼちぼちやっていきます。それではパイロット版の続きからどうぞ。



          ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

           #01「電脳ペットの捜索は義理・人情と低賃金」 part2

           さっき出会った地味な子の依頼を受けて、ウチは指定された資材置場にやって来た。ちょっと早く来過ぎたかな。って、やば。今イヤな電子音が聞こえたと思ったら、東の方角からキュウちゃんが飛んで来るところやった。ウチは路地に隠れて様子を窺う。そしたら依頼人の子も到着した。
          「UFO?いまどき?」
           あの子、また無防備にキュウちゃん眺めてるけど、見つかったらえらい目に遭うで。でもここで大声出すとキュウちゃんに見つかるかもしれへんし、ここはそっと声をかけよ。
          「お客さん」
          「あ」
          「また会ったな」
           依頼人がこっちに気付く。キュウちゃんはそのまま通り過ぎそうやった。
          「静かに。じっとしてるんやで」
           キュウちゃんを無事にやり過ごしたところで、ウチはその子に駆け寄った。
          「はあ。最近増えたやんなあ、キュウちゃん」
          「キュウちゃん?」
          「知らへんの?球体やからキュウちゃん」
           安直過ぎてウチはその呼び方気に入ってへんけどなあ。みんながキュウちゃんキュウちゃんって言ってるから、うつってもうた。
          「で、仕事はなんなん?」
           確認のためにその子にもう一度聞く。その子はブサイクな飼い犬の画像をウチに見せて状況を説明してくれた。どうやら壁に穴が開いてその犬が入り込んでしもたらしい。
          「ふーん」
           ウチはその壁をまじまじと観察する。まあ、見たところ不安定そうな空間やけど。
          「あの、私小此木優子っていうの。よろし......」
           その子が紹介し終わるのを待たずにウチはその壁に蹴りを入れた。画像がびりびりと乱れだす。
          「ウチは橋本フミエ。よろしくな」
           気のない挨拶になったけど、まあ言ってもよその学校の子やろうし、また会うかどうかもわからん。それよりウチは乱れた画像が何秒で修復されるかを調べるのに気をとられた。
          「空間が古いなあ。料金は200メタやけどいい?」
           その子はきょとんとした表情になった。
          「メタ?メタって何?」
          「あんたメタバグも知らへんの?ほら、さっき渡したやん」
          「ああ」
           思い出したようにその子はポシェットから1つ取り出した。あ、ちょっと待って。それはさっき、ウチが200メタ相当ってウソついて渡した、ほんとは100メタ相当しかないチャチなヤツやん。どうしよ。どうせこの子、他にメタバグなんて持ってへんやろし、足りひん分は現金でって言えるわけないし。
          「しゃーない!今回はそれで手を打ったろ!」
           ウチは泣く泣くそのメタバグ1つで引き受けることにした。商売あがったりやで。
          「え?さっきこれ200メタ分って言ってなかった?」
          「ん?えーからえーから。気にせんといて」
           いちいち細かい子やでまったく。まあ、気を取り直して仕事にかかろか。
          「で、どんな状況で壁ん中に入ったん?」
          「それが、変な黒い生き物について行って」
           お!?
          「なんやて!」
           それもしかしたら、イリーガルちゃうん?やったら話は別や。慎重に取りかからんと。一応このこと、メガばあに連絡した方がええな。
          「ちょっと失礼するな」
           ウチは電話をかけた。
          『へろー。どうしたんじゃ?会員ナンバー七のフミちゃん』
          「うん。今新顧客の女の子から依頼を受けたんやけど」
          『おう、それは良かった。営業成績に応じて、次回割引してやるからの』
           ウチは会員やから営業成績として加算されるけど、要は美容室とかの紹介者割引みたいなもんや。さすが商売の仕方がこすい。
          「ありがとう。でも今はそれどころやないねん。どうやらその子のペット、黒い生き物を追いかけてるうちに古い空間に迷い込んだみたいで」
          『なんじゃと?イリーガルが出たんじゃな?』
          「そうよ。イリーガル見たんやて」
          『そうか......それはまずいのう。感染すると厄介なことになる。助け出したら念のためワシのところに連れて来るんじゃ』
          「わかったわ」 
           ウチは電話を切って霧の立ちこめる資材置き場の中に入り込んだ。これは、どうもあかんなあ。
          「急いだ方がええな。ちょっと、それとってくれへん?」
           小此木さんに落ちてたトタン板を立てかけてもらう。その間に、ウチはこの素人さんに基本的なことを説明することにした。タダで。
          「古い空間は、だいぶ前に廃棄されたはずの空間やねん。そこに入り込んだんやったら、ちょっとやばいかもしれへん。特に最近のペットやったらな」
          「どういうこと?」
          「バージョンの合わへん空間やったら、ペットの体は壊れやすくなるねん」
          「壊れやすくなる!?」
          「すぐには死なへんわ。ちょっとどいて」
           ウチはポシェットから黒バグスプレーを取り出した。次にメガネにトタン板を認識させる。
          「ねえ。こんなんで本当にデンスケ助けられるの?」
          「まあ、見ててや」
           スプレーをしばらく吹きかけると、ぽっかりと穴が開く。
          「なによこれ?」
          「黒バグスプレー。メガシ屋で売ってるで」
          「メガシ屋?」
          「駄菓子屋の名前」
           何回か吹きかけると、穴は十分に広がった。
          「こうして、まずは穴を開けるねん。サッチーに見つかったら大変やけど」
          「サッチー?」
           なんでもオウム返しやなこの子。
          「サッチーも知らへんの?ほら、赤くて大きくて4個ついてる」
          「はあ」
           人が説明してんのに、きょとんしてもうてるもん。
          「アンタほんまになんも知らへんなあ」
          「今日、金沢から引っ越してきたばかりなの」
           そう言えばさっきそれ電話で聞いたな。
          「へぇ〜。金沢にはサッチーおらんのかな?」
           ちなみに大阪にはおるんやろか?こんなしゃべりで大阪行ったことないって言うと、いつも信じられへんような顔されるからなあ。一回通天閣はのぼっとかなあかんなあ。って考えながら、ウチはポシェットから釣り竿を取り出した。
          「ちょっと持っててな。それは電脳釣り竿。メガシ屋で売ってるわ。そしてコイツが、このミッションの主役。出てこい!タコやき!」
           ポシェットから丸まったタコやきを放りなげる。着地してから起立したタコやきを見て、小此木さんは驚いたように訊いてきた。
          「アナタのペット?」
           まさか。
          「ペットちゃうよ。ウチのしもべ。タコやき」
          「なんでタコやきなの?」
           いい質問ですねえ。
          「あのな。今見てたと思うけど、ポシェットに収納する時に丸まってる姿がたこ焼きみたいで、めっちゃかわいいねん!だからタコやき」
          「はあ」
           全然ピンときてないな、この子。本物のたこ焼きも見たことないんちゃうか。
          「これも、メガシ屋で?」
          「これは売ってへん」
           メガばあからもらったものには違いないけどな。メガばあはコイツにオヤジって名前つけてたけど、ウチがもっと良い名前を付け直してあげた。きっとタコやきも喜んでるやろ。そのタコやきは、初対面の小此木さんに頭を下げた。
          「これはご丁寧に」
           小此木さんも合わせて頭を下げる。ん?なにタコやきのヤツ、頬を赤く染めてんねや。
          「仕事やタコやき!」
           そうしてウチは手際よく釣り糸をタコやきに結びつけた。これも毎度やってることやし、手慣れたもんやで。
          「さ、後はメタタグを貼って」
           こうして思いっきりシバき倒すようにメタタグを貼るのも儀式みたいなもんや。
          「これでちょっとは壊れにくくなるやろ。よーし、行くんやタコやき!」
           黒い穴に入っていくタコやきに、小此木さんは興味津々みたいや。まあ初めて見たんなら、驚くのもわかるけど。
          「おもしろがってもられへんで。アンタの見た黒いのがもしイリーガルやったとしたら、キュウちゃんが嗅ぎ付けてもうじきやって来るで」
          「イリーガルって一体?」
          「最近見つかったコンピューターウイルスや。ペットに感染すると、やばいらしいで」
           悪いニュースばっかりで申し訳ないけどな。そろそろ冗談言ってる場合やなくなってきた。しばらくウチが黙ると、小此木さんも不安そうにじっと待っていた。
          「どうなの?」
          「うーん。思ったより入り組んでるなあ。ちょっと、様子聞いてみるわ」
           釣り竿に取り付けられている糸電話に呼びかける。
          「もしもし?こちらフミエ。タコやき、聞こえるか?オーバー」
           しばらくして応答が返って来る。タコやきの言葉は意味不明やけど、メガネに専用の翻訳ソフトがインストールしてあるからウチにはわかる。
          「うーん」
          「ね?どうなの?」
          「思ったよりおっきいみたいや。古い空間の中は迷路みたいになってるねん。もっと、近くにポイントが見つかればいいんやけど」
           そん時近場でキュウちゃんのレーザー音が鳴ってマジビビった。
          「あかん!」
          「何なの?」
          「キュウちゃんや!いつもやったらもっと時間かかんのに!」
           ウチは急いでリールを巻き上げる。このままやとタコやきの身も危ない。
          「どうするの?」
          「予定変更や」
          「まさか見捨てる気?」
          「アイツら、黒バグもペットも見境なく撃ってくるんやで!ここは一時撤退しかあれへん」
          「そんなあ!」
           いや、まあ気持ちはわかるけど。ウチらもあくまで商売やからな。撃たれて損害出すわけにはいかへん。そうするうちにタコやきを連れ戻した。
          「さ、引き揚げるで」
          「ま、待って!」
          「ウチらかて、撃たれたらタダじゃ済まへんねんで!」
          「お願い!ちょっとだけ、ちょっとだけ待って!」
           はあ?もうわかってへんなこの子。一緒に犠牲になる義理はないけど......
          「デンスケ......」
          「どうしたん?」
           小此木さんはウチの言葉も聞こえてへんみたいで、トタン板を持ってあちこち探し始める。
          「ここじゃない」
          「なあ。どういうことなん?」
          「......違う!」
           素人さんにポイントがわかったらこっちも苦労せーへんわ。それより逃げる時のことでウチは頭がいっぱいになってた。もうそろそろ限界や。にも関わらず彼女は自信まんまんにトタン板をあるポイントに立てかけた。
          「ここよ!この近くにきっといるわ!ね、早く!」
           ほんまに言うてんのこの子。、その自信はどっから湧いてくんの?ウチはタコやきと顔を見合わせる......まあ、ほんまに後少しぐらいやったら。それでこの子にも義理が立つやろし。
          「しゃーないな!タコやき!男気見せたれ!」
           ウチもやけになってタコやきをもう一度穴に放り込んだ。
          「ありがとう!」
           彼女の顔が輝いた。まだ助け出せてもないのに、それは重いで。
          「礼はえーから。タコやき!急げ!」
           どんどんキュウちゃんは迫ってるのに、いっこうに手応えがない。
          「早く」
           小此木さんの願いを無下にすんのかタコやき!と、その瞬間やった。
          「来た!」
           ついにタコやきからの合図が届いた。急いでリールを巻き上げる。ついに敷地内にキュウちゃんが入ってきた。
          「来たあ!」
           最後の最後、あと数秒でウチらも射程圏内に入るってところで、ウチは竿を思いっきり引っぱり上げた。そして、タコやきとデンスケが穴から飛び出して来た。
          「デンスケ!」
           彼女も叫び声をあげると、間一髪でトタン板から離れた。キュウちゃんがそのフォーマットを終えたタイミングで、ウチは釣り竿を投げつける。まずはこっちに気を取られるはずや。今のうちに。
          「逃げるで!」
          「うん!」
           タコやきを回収し、ウチらはダッシュで資材置き場を後にする。でもキュウちゃんもすぐに後を追ってきた。次の曲がり角を右に折れたところで、ウチは愕然とする。もう1機のキュウちゃんがそこで待っとったから。
          「うわっ!」
           どう逃げようかと考えてると、今度は背後からえげつない気配がした。後ろの建物に”郵”と書かれたロゴが浮かび上がる。ついに出てきよったか。アイツが。
          「今度はなに?」
          「いよいよ、サッチーのお出ましやで」
           灰色の建物からメリメリと突き出してくる血に染まったような赤い胴体。闇に紛れて獲物を捉える豹のような鋭い眼光。ウチの3倍はあろうかという巨体は、彼女を圧倒した。
          「一体どうなってるの?この街は?」
           後で思い返せば、それを解き明かすのがこの物語の趣旨やったわ。

           第1話 (終)

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           はーい。今週は以上です。フミエの物語なので、どうしてもフミエの言葉で終えたかった
          のでこんな強引なセリフで幕切れ。次回はアニメ第2話をやっていきます。

           それから先週も触れましたが、これ書いてみて思ったよりも時間をくうということがわかったので、しばらくブログは隔週に更新します。基本的には2週間に一度ということになると思います。誠に勝手ながら、それでよろしくお願いします。

           それでは今週はこの辺りで。
           

















           
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          『電脳コイル 関西 edition』パイロット版

          2010.08.20 Friday 22:42
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             前々から告知をしている『春』の第2部のサイドストーリーの構想がまとまらないうちに、どうしてもやってみたい企画を思いついてしまったので、今回はその試作版をお送りしたいと思います。サイドストーリーについてはもう少しお待ちいただけると幸いです。

             そのどうしてもやりたいと思った企画というのがタイトルにもある、『電脳コイル 関西 edition』です。皆さんなんのこっちゃと思われていますよね。とりあえず僕の話をお聞きください。

             僕はアニメの『電脳コイル』を見ていて常々思っていたことがあります。それは、「フミエが関西弁をしゃべったら、かわいさ2割増すのになあ」ということでした。

             ここのプロフィールにも書かせていただいておりますが、僕は関西在住です。さらに言えば、大阪生まれの大阪育ちです。だから普段は関西弁で話しています。『春』でもセリフの随所に関西弁が飛び出しているのは、関西人としての自我を抑えきれないからです。(関西弁と大阪弁は違うのかと疑問に思われるかもしれませんが、僕もその定義を気にしていませんのでここでは関西弁とさせていただきます)

             話をフミエに戻しますと、彼女はキャラとしては典型的な関西人の資質を持っています。マシンガントークで世話焼きでとっつきやすいところがそうですし、声優の小島幸子さんも大阪のオバちゃんということを意識しているとインタビューで語っておられます。だからフミエが「〜じゃん」と言うと、僕は悲しくなるのです。もちろん東京弁をバカにしているわけではありません。関西人は本能的に東京弁に違和感を覚えるものなんです。(少なくとも僕の周りではですけど)

             それから言葉遣いという点では、もう1つ気になるのが「バカ」です。フミエの場合これをダイチに連発しています。しかし、関西人は「バカ」という言葉は許せないのです。よく「関西人はアホと言われても怒らないが、バカと言われた日には怒りだす」と都市伝説のように語られているのですが、これはかなり的を得た意見だと思います。実際僕もそうで、「バカ」と言われると本気で見下された感じがして結構腹が立つことがあります。対する「アホ」は冗談めかしたニュアンスがあるので、どれだけ言われても腹は立ちません。

             それはともかく、みなさんも薄々気付いておられるかと思います。そう、この企画の趣旨はフミエに関西弁でアニメ『電脳コイル』のストーリーを語らせるというものです。その関西弁というのも、僕の理想とする言葉遣いという制約があるのですが、できるだけ関西の女の子がしゃべっている自然な言葉遣いに近づけたいと思っております。

             もちろん関西弁をしゃべるのはフミエだけです。フミエの1人称視点で進むのでほとんど関西弁になってしまうのですが、ヤサコや他のキャラ達については基本的にアニメのセリフ通りにしゃべらせます。

             関西弁というのは他の地方の方からするとなんか怖いイメージがあるかもしれないんですが、普通にフミエみたいな女の子がしゃべる分にはかわいいと感じてもらえると思います。結構汚い言葉だなあと感じられる時もあるかもしれませんが、それも愛嬌だと思って受け取ってください。

             そしてこの企画もショートストーリーの体裁をとって進めます。しかし関西人にしか伝わらない身内受けしかしないような物語を垂れ流すのは良くないので、今回はパイロット版、つまり試作バージョンとして1話お送りしたいと思います。それで評判が良ければ、今後制作を続けるというスタンスでいきたいと思います。

             ところで、関西弁の独特の印象はイントネーションに拠るところが大きいので、小説という媒体ではなかなか伝わりにくいという問題があります。例えば「メガネ」という単語がこの物語では頻発しますが、標準語だと平板読みで「メガネ」、おそらく「ポテト」という言葉の発音に近いと思います。しかし関西弁では「メガネ」の「ガ」で音程が上がります。イメージを書くと「_/ー」こんな感じなんですが、伝わりませんよね。発音に関してはテレビ番組やアニメで登場する関西弁話者のしゃべり方をイメージしてみてください。

             それではパイロット版、『電脳コイル 関西 edition』第1話をどうぞ。

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             #01 「電脳ペットの捜索は義理・人情と低賃金」

             ウチの名前は橋本文恵。
             生まれも育ちもここ、大黒市やねんけど、ウチのしゃべり方はかなり関西っぽいって言われる。なんでなんやろ。自然とそうなっていったって言うか、多分ウチには関西人の血が流れてるんやろな。とか言うて、ウチの親は両方とも関西やないし、理由は全然わからへん。
             このしゃべり方はかなり浮いてるって言われるけど、実際みんなおもしろい言うて喜んでくれてるし、ウチもあんま直す気はないし、ま、深くは考えんとこ。
             ウチのしゃべり方については置いといて、そんじゃ今ウチが取り組んでる活動についてちょっと説明するな。
             ”メガネ”については知らんはずはないやんな。じゃあその説明は端折るで。まあ、ウチらの住むこの大黒市っていう街はごっつい空間が不安定な街で、気い抜いてるとすぐにどっかで古い空間に通じる穴を空けたりすんねん。そこに”メガネ”をかけてる時にしか見えへん電脳ペットとかが入り込むと、そこから出られへんようになる時があんねん。
             そんな時にウチの出番や。ウチはこう見えても電脳ペット救出のプロで、あらゆる道具を駆使してそのペットを古い空間から連れ戻すことができるねん。すごいやろ。
             でも最初はウチもこんな慈善活動とかしようとは思ってなかってん。依頼人からはもちろん報酬を受け取るんやけど、私の場合かなり低めに設定してあげてるから全然儲けになれへんしな。
             じゃあなんでこんなことしてるのかって言うと、知り合いのおバアさんに強引に押し付けられたからやねん。メガばあっていうけったいなおバアさんやねんけど、メガネのスキルはメッチャ高くてな、いつもメタバグっていう原料から”メガネ”で使える便利なアイテムを作ってくれるねん。それをメガシ屋っていう、これまたけったいな店で売ってるってわけ。そのメガばあは「コイル探偵局」っちゅうクラブも組織してるんやけど、私はそれの会員ナンバー7ってことになってる。行方不明のペット捜索も、そのクラブの活動の1つってわけやな。というわけで今日も行方不明の電脳ペットを捜してたところやねん。

              ......とかなんとか言ってる間に、今日のターゲットを捉えたで。目の前にネコが3匹ひなたぼっこしてるけど、その中の1匹が依頼人からもらった画像のネコにそっくりや。ウチはそーっと”メガネ”をはずして見た。
            「おーっ。おったおった。電脳ネコや」
             よっしゃ。”メガネ”をはずすと見えへんようになったのは、ウチの捜してたネコやで。
            「名前は......ヘップバーン?変な名前やなあ」
             もっとキャッチーな名前つけたればええのに。
             まあええわ。とりあえず古い空間に入り込んでないのはラッキーやったわ。このまま捕まえて依頼人のとこ持ってったら終わりやしな。いつもこんな楽なら割りのええ仕事なんやけどな。
             そこでとりあえずヘップバーンに気付かれへんように抜き足差し足で忍び寄ってみた。距離を詰めてあとは手を伸ばして捕まえるだけや。そう思った瞬間やった。
            「ううおおおりゃー!!待てやこのネコがあ!!」
             妙に甲高い声が聞こえてきたかと思うと、小汚い物体が四つん這いになってヘップバーンに突っ込んで来た。最悪や。ヘップバーン逃げてもうたやないかい!
            「ちょっと!ウチの獲物に何されしてくれてんねん!」
            「あっ。フミエ!」
             ウチも思わず飛び出してそいつを呼び止めた。この沢口ダイチいうチビは、最近ウチの商売に割り込んで入って来るうっとうしいガキんちょや。コイツのおかげでこっちがどんだけ損害を出しているかわからへん。今日という今日はもう許さへんで。
            「ウチが先に依頼を受けたんやで!」
            「商売始めたのはオレが先だ!」
             よう言うわ。ウチのマネしてこの商売始めたくせに。
             もっと言い返したかったけど、そこでヘップバーンの鳴き声が聞こえた気がした。ダイチも聞こえたみたいで、ここは2人して耳を澄ませた。
            「ヘップバーン?」
            「ヘップバーン?」
             ヘップバーンの気配を探るうちにダイチもどっかに消えてもうた。

             それから5分ぐらいヘップバーンのこと探しまわったけど、なかなか見つからんかった。ほんま、この間に今度こそ古い空間に迷い込んだとかそういう展開だけは勘弁してや。
             そう思ってた時やった。路地の向こうの方でヘップバーンに似た灰色の毛並みをした電脳ペットを見つけた。ヘップバーンや思うて走りだしたんやけど、今度はじみ〜なクリーム色の服着た女の子が急に現れて、ヘップバーンのこと拾い上げた。
             もしかしてあの子もヘップバーンのこと狙ってんの?てかあんな子この辺じゃ見たことないし。もしかしてよその小学校の子がウチのテリトリーで商売してんのかな。そんなん許さへんで。ダイチもそやけど、よそもんにシマ荒らされるんはもっとご免や。てか、ダイチがよそもの使ってやってんのか。とにかく、ここはがつんと1発かましたらんとあかんな。
            「ヘップバーン!!」
             走って来てちょっと疲れたけど、ここで相手に隙見せたらあかん。そのままの勢いでまくしたてたった。
            「ちょっと、アンタ誰や?ウチの獲物に何すんねん。先回りして横取りするとか、さてはダイチの仲間やな!?」
            「か、関西弁?な、なによ?」
             やっぱりビビってる。こんなおっとりとしたおとなしそうな子に負けるはずがないって確信した。
            「返しや。それはウチの獲物や。渡さへんかったたひどいで!」
             メガビーの構えをとってさらに脅したった。
            「い、意味わかんない。ダイチってなに?」
             心底困ったようにその子が言った。ダイチ知らんのか。むむむ。これはウチの勘違いやったか。
            「なんや、素人さんか」
             ウチはメガビーの構えを解いた。
            「ね、譲って。いくら?いくらならえーの?なあ、時間ないねん」
             ウチもカタギに手出すことはせえへん。こういう時はいくらか掴ませて穏便に処理すんのがかしこいやり方や。こんな報酬の安い仕事で出費すんのは痛いけど、まあ仕方ないわ。それよりこの現場にダイチが割り込んできたらややこしくなる。さっさと引き揚げようとウチはポシェットをさぐってメタバグを取り出した。200メタか。ちょっと高いな。もう1回ポシェットを探って100メタ分のメタバグをこの子にあげることにした。
            「これでどう?200メタ相当やで。どう?」
             どうせわからへんやろ。メガネに詳しそうな顔してへんし。と、その時やった。
            「あ〜っ!!オレの獲物どうする気だ!」
            「き、来おった!」
             声のあがった方を見たらダイチがおった。あかん、このままじゃメタバグちょろまかしたことがバレてまう。いや、違うな。ヘップバーンを横取りされてまう。
            「じゃ、これで交換やで」
             ウチは強引にその子にメタバグを掴ませてヘップバーンをいただいた。一緒にコイル探偵局の名刺も渡ておいた。後は逃げるだけや。ウチは全力で駆け出した。
            「あ!この!待てこら〜!!待て〜!!」
             ダイチも食らいついてきたけど、ウチの脚力なめたらあかんで。路地の中を右に左に縫いながらダイチを撒きにかかった。
             しばらく無我夢中で走って、気付いたらダイチもおらんようになってた。ざまあみろ。無駄骨で終わったな。
             
             そこからウチは依頼人と鹿屋野神社で待ち合わせてヘップバーンを無事に返した。
            「ありがとうフミエ。ホントに助かった」
             依頼人の相原アイコはヘップバーンを抱き寄せ、頬をくっつけ合って喜んだ。
            「そんな大事なペットなんやったら、もう目離したらあかんで。最近は物騒なヤツが巡回してるからな。その子にバグがなかったから良かったものの」
            「うん......ごめん」
             急にアイコはしんみりとした顔つきになった。そうか。アイコには先月ウチのペットが撃たれた話はしたもんな。
            「まあ、わかればええよ。それより報酬の方をいただきたいんやけど」 
             あんまり気を遣わせたくないから話を変えた。ウチはいやらしい話でも遠回しな言い方はせーへん。
            「ああ、そうね。いくらだっけ?」
            「300メタ」
            「私メタバグなんて持ってないんだけど。現金で良い?」
            「かまわへんで」
             今はメタバグの数もかなり減ってきてる。おかげで必死に探さんと手に入らんくなった。アイコみたいなライトユーザーが持ってないのもムリはないわ。ウチとしては今後も値上がりが期待できるメタバグの方がえーねんけど、まあ贅沢言ってられへんわ。現金の方が信用できるしな。
            「じゃあはい」
             アイコから受け取った現金をウチは財布に入れた。
            「まいど、おおきにな」
             ウチはアイコに手を振って鹿屋野神社を後にした。これからどうしよ。メガシ屋にまた新しい依頼でも届いてないかな。とりあえず行ってみよか。そう思ってた時、ウチのメガネ電話が着信した。誰やろ。知らん番号やな。
            「もしもし?」
            『あ、あの、もしもし?橋本文恵さんの番号で間違いないでしょうか?』
             なんか緊張気味の声が聞こえて来た。やけに他人行儀やな。依頼やろか。でもなんか聞いたことある声やで。
            「ええ。橋本フミエで間違いないけど、依頼ですか?」
            『は、はい。先ほど渡された名刺に行方不明のペット探しますって書いてあったものでお電話させていただきました』
            「先ほど?ああ、さっきの子かいな」
             クリーム色の服を着たおとなしそうな子やな。
            『ええ。先ほどはどうもご迷惑をおかけしました』
            「別にえーよ。ウチもさっきの任務はうまくいったし。それよりアンタのペット、行方不明になったん?」
            『ええ。犬の電脳ペットのなんだけど、私の目の前で壁の中に入っていって戻れなくなったみたいなんです』
             ははあん。それ厄介なパターンやな。
            「なるほど、事情はわかったわ。急いでる?」
            『急いでるっていうか、とにかくその子の身に何かが起きないか不安で......』
             そらそうやわな。古い空間に電脳ペットは長居できひん。
            「じゃあすぐに向かうな。場所はどこ?」
            『場所?ごめんなさい、今日この街に引っ越してきたばかりでよくわからないの。とりあえず駅から北に5分ほど歩いた、工事前の建築資材が置いてある空き地なんだけど......』
             頭に地図を思い浮かべて考えた。該当する場所は1つしかない。にしてもあの子、今日引っ越してきたんか。どおりで”メガネ”かけてるのに素人っぽいオーラが出てる思た。
            「あー、わかった。あの場所やね。5分もあれば着くわ」
            『ちょっと待って。妹を親に預けないといけないから、10分後に着くようにしてくれるとありがたいんだけど』
            「妹?まあ、それでえーよ。じゃあ10分後そこで」
             ウチは電話を切った。とりあえず時間もあるしぶらぶら行こか。でもなんやろ。こんな任務今まで散々こなして来たのに、今日はなんか胸騒ぎがするな。あの子......うん、なんかあの子がこれからウチを途方もない未来に巻き込んでくれるような、漠然とした不安にも似た予感がすんねんけど、気のせいやろか。
             ま、細かいことは気にせんと、ぼちぼち行こか。

             
            ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


             はい。とりあえず試作バージョンなのでここまでにしておきます。フミエの心の声が関西弁だと、多少くどいような気がするのですが、セリフに関しては割とハマっている感じではないかと勝手に思っております。

             さてこの物語、今後も続けていっても大丈夫そうですかね。僕としては結構書いていて面白かったですし、何よりアニメのセリフを翻訳するだけですから楽なので、できれば続けていきたいなあとは思います。

             それでは本日はこの辺で失礼したします。

              
             
             





             
             

             




















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